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すると、目の前の男は困ったように弱く笑うのだ。
「勿論、そんな究極の選択をしなくてすむように、貴方なら手を打ってくれると信じていますけれど。でも、必ずなどないから」
「馬鹿な事を言うな。俺の采配に命をかけるなど…。お前はもう少し、自分を大事にしろ」
叱りつけるように言うと、ランバートはもっと困った顔をする。だが何故かその表情は、少しだけ嬉しそうだった。
「心配してくれるんですか? 感激だな」
「…言ってろ」
残った酒を流し込み、ファウストは腰を上げる。そして、未だ座ったままのランバートに背を向けた。
心は落ち着いた。少なくともあのどうしようもない怒りは消えていた。
「俺は俺の存在を、そんなに尊重できないんですよ」
幻聴のような、小さく弱い言葉だった。けれどファウストの耳には確かに聞こえていた。
僅かに足を止める。だがそれに返す言葉は見つけられないから、そのまま歩き去った。
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