ラーク迎賓館

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 同じく会場の設営をしている、少し年配の男性が呼んでいるのに足を向ける。  彼は会場設営のチーフなのだが、ランバートの事が気に入ったらしく、こうして声をかけてくれるようになった。 「どうかね?」 「少し濃くはありませんか?」  赤いバラを基調とした花瓶は華やかで豪華だが、毒々しい印象がある。仕事前に今日のパーティーの趣旨を見たが、こういう飾りを強く希望する者はいなかったように思う。  ランバートは傍にある淡いピンクや白いバラを手に取ると、赤いバラと差し替えていく。その間にカスミソウや緑を増やし、全体を整えていった。  その仕草を、チーフの男は満足げに見て頷いている。 「どうでしょうか」 「やはり君はいいセンスをしている。どうだね、ここで長期の仕事をしないかね」  ここに来て二日目には言われ始めた台詞だ。この人物だけではなく、古株のスタッフや迎賓館のマネージャーにまで口説かれる始末だ。  ランバートは苦笑して、申し訳なさそうに素直に深く頭を下げた。 「すみません。士官試験を受けて役人になるのが、母との約束なので」 「まったく、本当に惜しいね」  とは言うものの答えは分かっていたのだろう。チーフはそれ以上は言わず、元気づけるように肩を軽く叩いて行ってしまった。     
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