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こうした作業を続け、夕方には客人が入る。人々の間をいかに優雅に邪魔にならないように気を使いながら進み、欲する人の所にタイミングよく料理や飲み物を届けるか。笑顔を作り、愛想をよくし、かつ目を光らせる。何気にやりがいのある仕事だ。
「リフ、今日はもう上がりだろ?」
裏から声がかかって、ランバートは時計に目をやる。見れば確かにシフトが終わる時間だ。今日は夕刻までだったのを忘れていた。
裏に戻ると同じ男性スタッフ数人が笑顔で迎えてくれる。彼らの傍で同じように笑顔で近づき、「お疲れ」と声をかけながら会話に参加していくのが、ここに来てからの日課だ。
「今日の客も貴族ばっかなんだって? 正直、肩が凝るんだよな」
「まったくだ。まぁ、あいつらのおかげでこっちはいい給金貰ってるんだけどな」
「今日は婦人会だっけ?」
ランバートは朝のミーティングを思い出しながら言う。先輩にあたる男性スタッフ五人くらいが、「うんうん」と頷いた。
「飾るだけ飾ったってな。正直あの世界は、俺には分からないよ」
「リフも貴族出身だっけ?」
「貴族ったって、地方貴族の庶子だし。大体、父親の顔も見た事ないんだぜ? 俺にもあの世界は理解できないよ」
これはランバートの率直な意見でもあった。
どちらかと言えば中身を磨くことに余念のなかったランバートは、外見ばかりを飾り立て、見栄を塗りたくる貴族の在り方は理解できなかった。
「だよな!」
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