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『―――、翔真? 翔真っ!?』
『あ。気がつかれましたか? 速水さん? 速水さん、分かりますか?』
重たい瞼を開けると、薄明るい部屋を仕切る無機質なカーテンが見え、母さんと見知らぬ男性が俺を覗き込んできた。
男性はごく薄い水色のケーシーを着て胸には名札から看護師と書かれている。
『失礼しまーす』
軽やか声とともにペンライトのようなもので俺の目を照らされた。眩しさに目を顰めていると次は手を取られ、
「握ってもらえますか?」と言われた。
・・・・・・おっさんの手を握る趣味はないんだが。
それでも言われたとおり軽く握ると、「はい、ありがとうございます。大丈夫そうですね」と彼の明るい声。いかにも平常運転の看護師とは対照的に、やつれた顔の母さんは涙をぬぐっている。
何があったんだっけ。大ごとになってるな―――と、思い出そうとするも、
頭が泥土と化したように回らない。
『まだ麻酔が効いてますのでぼおっとされてますが、心配ないですよ』
母さんが説明を受けているのを聞きながら、俺はまたうとうとと闇に沈んでいった。
―――『大丈夫だよ』
―――『楽しみにしててって、』
―――『頑張ってね、―――』
薄闇の中浮かび上がるように再生される声が、また別の記憶と重なる。
―――『急いで』
―――『早く、危ない』
ああ、あの声だ。
鈴香が工事現場の穴に落ちた時の・・・・・・・、
落ちた、時!!??
『鈴香っ』
『――っ、はいっ、先輩??!!』
『え、・・・・・・・あれ?』
目を開くと、明るかった。
薄黄色のカーテンで囲われているが、近くに窓があって空が見えている。ICUじゃない、と思った。
いや、それより。
『先輩っ、大丈夫ですか?』
『ああ、りん、・・・・木花、さん?』
『え、――っと、・・・はい。・・・・あ、あの、目が覚めた・・・・ですね、』
ちょっと、現状把握ができない。鈴香も挙動不審だが。
さっき「先輩」って呼んだ・・・・よな?
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