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その日、 頑張って定時で退社した私は マンションの鍵を開け靴を脱いだ玄関で、コンビニの袋をドサリと落とし蹲った。 秋とは言えカーテンを開け放った窓の外はまだ陽が残っている。新しい職場に移ったばかりのあの二人は、この時間まだオフィスだろう。 「・・・・・・・・、嫌だなぁ」 新しく来たイケメンズの噂は今日1日あちこちで耳に入ってきて、そのたびに胸に鈍い痛みを覚えた。 毎日こんな気持ちになるのなら、いっそ会社を辞めてしまおうか。 仕事は好きだけど今の会社にしがみつく程じゃない。別に私一人食べていくくらい何とでもなるし、実家の仕事を手伝ってもいい。 よたよたとダイニングテーブルに辿り着き椅子に腰を下ろすと、チェストの上の写真立てに夕陽が当たっているのを眺めた。 水色の空を背景に、笑顔の私と優しく微笑む“彼”が顔を寄せ合って映っている。 自分の顔が好きじゃない私でも一番のお気に入りの写真だ。 「・・・・どうしよう、ねえ。 私、大丈夫かなぁ・・・・」 写真の“彼”の口は動かないけれど、私は心の中で“彼”と会話する。ちょっと嫌なことがあるといつもそうしてきた。 そのまま物思いに耽っていたが、気づくと暗くなって“彼”の顔が見えなくなっている。 「・・・・・・うん、そうだね。 もうちょっと、様子見てみる。なんとかなるかも知れないし、ね」 私は頭の中で聞いた“彼”の優しい声に返事をして、買い物袋の中身を片付けるために立ち上がった。
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