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『会いたい』と先に連絡していたのは私だけれど。着信履歴があったから掛けたのに、『お客が来たから』と途中で切られてしまった。
相手はラインさえ面倒くさがる、若い女性には珍しい人で。それなのに昼間はいつも忙しいから、こういうこともよくある。
「だからぁ、メールとかにしようよ」
スマホの画面に文句を言って机に置くと、
私は肘を突いた左手に頬を乗せ箸でウィンナーを突つく。
「じゃあ着拒を解除してくれるか?」
「 っ!!?」
不意に背中に掛けられた声に、驚いてお箸を落としてしまった。
「・・・・・・、」
「・・・・。悪い」
数秒、そのまま固まっていた私は、声の主が近づく気配に慌てて椅子から降り、落とした箸を拾う。
転がった私の箸を拾おうとしていたらしい彼が、思いとどまって背を伸ばした。
「弁当か。・・・・社食で見ないと思ってた」
「な、・・・・・・お疲れ様です」
拾ったお箸を机に置いてから、立ち上がって小さく頭を下げる。そして姿勢を正すと視線を合わさぬよう相手のネクタイを見つめた。
「7年ぶり、くらい?」
「そうですね」
「元気だった?」
「速水さんも、お元気そうで」
「ああ、・・・・まあ」
それきり彼も黙ってしまい、気まずい沈黙が流れた。
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