14902人が本棚に入れています
本棚に追加
若くして自分より歳上の部下を持った者が皆、自分のように社の中枢部と縁故のある人間だとでも思ってるとか?
いや、この人も此処では只の平社員のはずだけれど。
いつまでもお箸を洗っている訳にもいかず、私は備え付けの紙タオルで軽く拭いて席に向かう。
おどおどは、したくない。
私は箸を持った右手の指を、左の親指で撫でた。――薬指にある銀色の指輪を。
「他にご用件は」
「・・・・水口課長というのは、」「私ですが」
不意に入り口から穏やかな低音ボイスが聞こえ、私はほっとしてそちらを見た。
「水口です。留守にして申し訳ない」
「とんでもない。・・・・昼休憩に失礼とは分かっていたのですが。先日からご挨拶が出来ずにいたもので」
何事もなかったかのように、彼は笑顔を作った。昔より嘘臭さを感じさせないあたり、大人になったなと思う。
「今週から販売促進課でお世話になっております、速水と申します。
2課の金崎さんが先日業務内容を説明をくださった際、お預かりしたこちらがとても良い資料だったので・・・・てっきりお返しすべきものかと」
「それはご丁寧に。
資料のコピーをわざわざ返しに来てくれるとは」
「・・・ああ、そういうものでしたか。自分が居た前のオフィスではそうそうコピーを作らないので」
「なるほど」
最初のコメントを投稿しよう!