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若くして自分より歳上の部下を持った者が皆、自分のように社の中枢部と縁故のある人間だとでも思ってるとか? いや、この人も此処では只の平社員のはずだけれど。 いつまでもお箸を洗っている訳にもいかず、私は備え付けの紙タオルで軽く拭いて席に向かう。 おどおどは、したくない。 私は箸を持った右手の指を、左の親指で撫でた。――薬指にある銀色の指輪を。 「他にご用件は」 「・・・・水口課長というのは、」「私ですが」 不意に入り口から穏やかな低音ボイスが聞こえ、私はほっとしてそちらを見た。 「水口です。留守にして申し訳ない」 「とんでもない。・・・・昼休憩に失礼とは分かっていたのですが。先日からご挨拶が出来ずにいたもので」 何事もなかったかのように、彼は笑顔を作った。昔より嘘臭さを感じさせないあたり、大人になったなと思う。 「今週から販売促進課でお世話になっております、速水と申します。 2課の金崎さんが先日業務内容を説明をくださった際、お預かりしたこちらがとても良い資料だったので・・・・てっきりお返しすべきものかと」 「それはご丁寧に。 資料のコピーをわざわざ返しに来てくれるとは」 「・・・ああ、そういうものでしたか。自分が居た前のオフィスではそうそうコピーを作らないので」 「なるほど」
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