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どうってこと無さげに言うけれど、この2人を後に従えて堂々としていられるのは、さすが志保だ。 「鈴香、やっぱ帰るの?」 「ん、」 「リンカ、さん?」 志保の残念そうな声を追って。 思わず子鹿を想像してしまう、奇麗な目をした男性が 私の名を片仮名で呼んだ。 「“すず”に“香る”でリンカ。先輩の名前、コノハナリンカっていうんですよ!」 無意味に得意げに胸を張る文恵ちゃん。 『へえ、』と子鹿さんが首を傾げて私を見つめる。 短いけれど艶のある黒髪に印象的な黒い瞳。整った顔立ちに可愛げのある表情。 これは・・・・販促のお姉様方はさぞ喜んでいらっしゃるだろう。鑑賞用としては志保お気に入りのタカノ君よりポイントが高そうだ。 「“香”の字なんですね。“花”って字かと思いました。“凜”とした“花”とか。そんなイメージかな、と」 「 っ!」 ――『“凜”とした“花”――そんなイメージもあるよ?』 柔らかく細められた瞳が、かつて優しい声でそう言った人を想わせた。 「・・・・鈴香?」 「え、・・・ああ、ごめん」 志保の表情で、自分が呆けていた事に気づく。 最近は少なくなったけど、まだこうして志保に心配させてしまうことが たまにある。
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