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ヒュウゥ、と一陣の風に巻き上げられた長くもない髪を、撫で付けようと左手を動かしていた時だった。
「・・・・で? 木花さんは今日は出席なさらないんですか?」
黒いガラスのような声にうっかり顔を上げると、切れ長の瞳に視線を絡めとられてしまい、
「いえ、参加、します」
何故か言葉が、ひとりでに零れた。
「わぁ、やったぁっ!!
行きましょう!? 鈴香先輩の気が変わらないうちに早く!」
自分が何を言ったのか理解する前に、私の鞄が文恵ちゃんに奪われた。
「え、・・・あ、」
あっという間にビル2つぶん程先へ走って行く文恵ちゃん唖然と見送った。
「良いじゃん、行こうよ。1人くらい増えても大丈夫だって」
私の肩をぽんと叩いた志保が、その手を背中にまわして促すから仕方なく歩みを進める。
「アレの教育係は大変だったわね」
「力不足でした」
「まあ仕事はちゃんと覚えたじゃない」
背後で立石さんのクスクス笑う声が聞こえた。
「そう言えば水口課長は?」
「午後イチで出張したけど、来る予定。『ちょっと遅れるかも』って」
「よく働く課長だよねぇ。しかもガツガツした印象与えないし。本当デキた上司」
「向井課長に仕込まれたからね」
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