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3課の向井課長はウチでは珍しい女性管理職。今の社長が就任した途端に課長に抜擢されたから、社長の愛人とか噂されたけど。 「3課にいた時に?」 「うん、圭介さんが新人の頃から、凄い仕事人だったって」 今はそんな噂も吹き飛んだ。 彼女の仕事ぶりが吹き飛ばしたのだ。いまや多くの女子社員達にとって憧れの存在。 私も尊敬はしている。 ・・・・・・あんなに仕事する気はないけれど。 私と志保の会話を聞いているのだろうか、後ろの2人は黙って足音だけ響かせている。 信号待ちしていた文恵ちゃんが私の鞄を持ったままだったから『ありがと』と手を差し出すと、 彼女は笑顔でぎゅ、と鞄を抱き締める。 「文恵ちゃん、それ返して?」 「私持ってます!」 「ねぇ。手ぶらで歩くの慣れてないのよ」 「“人質”なのに」 「もう逃げないってば」 呆れてそう言うとやっと返してくれた私の大切な鞄。 「良い色になってきたよね、その革」 「うん、でもそろそろ新しい鞄を買おうかなと思って」 大事に使ってきたけど、痛まないうちに。ちゃんと革の手入れをして。 「捨てないでしょ?」 「勿論、大切にとっておくよ」
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