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「止めてよ。異人の血が混じってるってだけよ」
「“異人”って。いつ時代の言い方ですかぁー」
誰もが褒め称えるルックスなのに、志保は自分の容姿が好きではないらしい。贅沢な悩みだと思うけど、美人には美人の悩みがあるのだろう。
少し離れて大きな笑い声が上がり、皆がそちらを見た。いつの間にか主賓の2人が元のテーブルに戻り、向井課長と取り巻きの女性陣が囲んで盛り上がっている。
その中の広い背中をじっと見てしまっていたのに気づいて、私はゆっくりと顔を戻し、こくこくとビールを飲んで溜息を吐いた。
やがてお手洗いに立った志保と私は、なんとなく直ぐ戻る気にならず、廊下の壁際に置かれた長椅子に座る。
「先輩、幸せそうだねー」
「うん。・・・・・・ねえ」
「ん?」
「鈴香は、好きな人居ないの?」
「知ってて聞かないでよ」
宴の賑わいが扉の向こうから伝わってくるものの、廊下は夢から覚めたもの達の空間だ。
エレベーターの向こうにある喫煙コーナーでは1課のおじさま社員が2人、紫煙を燻らせつつしみじみ語り合っている。
窓の外を車の行き交う音が聞こえて、私は暗い窓を見上げた。
幸せな人を羨ましいと思うけど。
自分が幸せになりたいかというと、
・・・・今は特にそんな願望もない、かな。
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