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「鈴香[リンカ]せんぱ~い! 金曜の歓迎会、行くんでしょぉ?」 営業2課の自席に辿り着くと、元気な声が追いかけてきた。 おかげで机に突っ伏す寸前だった私は踏みとどまって、現実に戻ることが出来たのだけれど。 朝礼の最後に部長が告げた歓迎会の話題で、あちこちで女性社員が盛り上がっている。彼等は研修も兼ねて営業部の各課を数ヶ月ずつで回るらしいから、課を超えて歓迎会をすることになったそうだ。 基本全員参加で会場を押さえてあるというから、会社を挙げて異例の優遇だ。 ・・・・もちろん会社は彼、速水翔真が何者かは知っているのだろう。 それにしても、即あの人と同じ課になるという最悪の事態は免れた。彼はまず販売促進課に配属となり、もう1人は営業3課だ。 「鈴香先輩ってば!」 「声大きいよ文恵ちゃん。・・・・うーん、多分行かないと思う」 「ええー? 行きましょうよぉ ・・・・鈴香先輩が行かないなら私も行くのやめようかなぁ」 「文恵ちゃん、ねえ声を抑えようよ」 小さな体に似合わぬ声量の持ち主はうちの課で一番若い岡田文恵[フミエ]ちゃん。肩までのフワフワ巻き毛は驚いたことに天然だそうで、大きな瞳にぷっくりした唇でお人形のような女の子だ。
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