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  週末の晩で、ネイサンと飲んだ帰りだった。ケイティとエリーは既にカナダに戻っていて、ネイサンは来週もう数社の企業を回ってから帰国する予定だ。 『うおっ、と』 近くを歩く中年男性が足を滑らせそうになった。気温が下がって路面が凍結し始めたらしい。少しの雪でも積もれば厄介だ。明日が休みで良かった―― と、降る雪に視線を投げた時 見覚えのあるコート姿に足が止まった。 あの鞄、柔らかな桜色のストール・・・・・・鈴香だ。 買い物でもして遅くなったのか、ショッパーを2つほど手に提げて白い息を吐いている。商店街の入り口へ向かう彼女を、見失わないように後を追い始めた。もしかしてコンビニに寄ってくれれば、偶然を装って声を掛けられるかも―― そう思ったのだ。 商店街の手前で新年会の帰りだろうか、コートやジャケットを着込んだ賑やかな男女がたむろしていた。彼らを避けて、鈴香は工事現場を囲う黄色のバリケードやフェンスの側を通ろうとする。その時、 『ワハハーッ!!』 と騒ぎ声が上がり若い男がドンッと友人に突き飛ばされ、あろうことか彼女にぶつかった。 『きゃ、』 『りんっ、――』 『うわ!! わわっ、すみません!』 転び掛けた鈴香がバサバサッとショッパーを落とし、バリケードで体を支えたものの斜めに倒れこんだ。 『ごめんなさい! 大丈夫ですか?!』 ぶつかった男と連れの女性が鈴香を助け起こし、他の連中も鈴香を囲んで怪我はないか服は汚れなかったかと騒ぐ。 『だ、大丈夫です! あ、どうも』 拾われ手渡されたショッパーを受け取った鈴香は、返って申し訳なさそうにペコペコとお辞儀をし、恥ずかしそうに立ち去った。 集団も口々に謝罪を述べて 『お前が突くから~』 『そうだコイツが悪ぃっ』 と、ぎゃあぎゃあ目立ちながら違う方向へ移動し始める。 『―――、ふうぅ」 離れたところで息を詰めて見守っていた俺は、大きく息を吐いた。俺が乗り込んで騒ぎを大きくしては彼女が恥ずかしいかと思いとどまっていたのだ。 やれやれと歩き出した俺は、また「え、」と立ち止まった。去ったと思った鈴香が小走りに戻って来ている。 俺に気づかない彼女は、先ほど転んだ場所でバリケードやフェンスの周りをきょろきょろと見回していた。何か落とし物をしたらしい。
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