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捜し物を手伝うくらい、同僚ならOKだよな―――
そう脳内で指差し確認しているうちに、彼女は目的の物を見つけたらしかった。が、悲愴な顔をしている。視線は黄色いバリケードの向こう側、地面が掘られた工事現場だ。
しかし彼女は諦めるという選択肢をとらなかった。なんとバリケードを斜めにずらして中に入り込むと、四角い大きな穴の縁でしゃがみ込んだ。
『ちょ、危な、――っ』
思わず駆けつけようとしたその時、何故か俺の足下がふらついてツルリと滑った。同時に工事現場を囲うフェンスが一斉にガタガタと音を立てたかと思うと
ガシャ――ン!!
『んきゃあっ!!』
『りんっ――!』
。
大きな音を立てて黄色いバリケードが倒れ、鈴香の姿が消えた。
『鈴香っ』
倒れたバリケードを跨いで穴の縁に立つと、鈴香は四つん這い状態で目を丸くして俺を見上げた。
『無事かっ?』
『は、速水さん?!』
幸い穴はそう深くはないが、女性が自力で上ってこられるほど浅くはない。よろよろと立ち上がると頭が地面より上に出るくらいだった。
『怪我は?』
『えっと、・・・・肩を打った、かな?』
右肩をさすっているが、取りあえず大きな怪我ではなさそうでほっとする。
『さっき揺れたよね、地震?』
『え、あそこ、人が落ちたの?』
『うわ、どうすんの? 警察呼ぶ?』
背中に通行人の声を聞いて、俺は焦りだした。大勢の目に晒される前に彼女を救出したい。
『手を、・・・ああ、荷物を先に』
彼女はわたわたと鞄や紙袋をかき集め、ハッと気づいて傍に落ちていた黒っぽいもの――書店の袋――をショッパーの1つに入れて俺に渡した。それから左手を俺に差し出した。右は肩が痛むのだろう。
『その窪みに足掛けられないか?』
『え、と・・・・・・やだ、滑る』
早く早く――と焦る所為か、両手で掴んでも手袋が滑る。コートの腕を掴んでも微妙に位置が低くて上手くいかない。
落ち着け自分、と一度大きく息を吸った時、ふと辺りが先ほどまでより暗いのに気がついた。降り続く雪を照らしていた明かりが消えている。しかしフェンスに囲まれていることもあり、光が減った理由は分からない。ただ不安は大きくなった。
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