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『すみません、私が寝ぼけてました。うとうとしてて』 『・・・・此処は、病室?』 『はい。ええと、皆さんちょっと席を外されてて』 『もしかして木花さん、ずっと此処に?』 危険な状態を脱した俺は、さっさとICUから普通の病室に移されたのだろう。ベッド周りはカーテンに囲まれてはいるが、隙間からも隣に他のベッドが無いと分かる。此処は個室だろうか。 『夢・・・・・を、見た』 『え、』 夢というのは、波が引くように消え去ってしまうことがある。だから今、言わないと。 『「また会えるから、楽しみにしてて」と、言ってた。そう、君に伝えてって・・・・』 『はい? 誰が?』 『良隆くんが。』 ふわふわと漂う記憶を拾いながらそう伝える俺の視線が、鈴香の顔にとまった時、 それはそれは大きく見開かれた目と、だんだんと開いていく口に此方が驚いた。 『わ、私も、・・・・見ました、夢・・・・』 『へえ、』 『せん、速水さんが救急車で運ばれて・・・、でもなんでか、飛行機に、救急車が飛行機になって、外国に行くことになって』 ああ、なるほど。夢って設定があり得ないし、そしてコロコロ変わるよな。 『知らない人たちが、何人も付き従って行くんです。だから、私はおいっ、置いてけぼりで、』 「置いてけぼり」という言葉に、申し訳ないやら嬉しいやら。彼女は俺について行こうとしてくれた前提だから。 『泣かないで・・・・、鈴香』 くしゃりと歪んだ顔からぽろぽろと涙が零れだす。手を伸ばそうとしたが点滴がつながっていて動かしづらい。鈴香は喉を震わせながらサイドテーブルに手を伸ばし、ティッシュの箱を取って傍らに置いた。 『わ、私また、置いていかれるって、泣いて。・・・・そっ、そしたら良隆くんがっ、だ、大丈夫だよ、って。 「先輩は、ちゃんと帰って、くるから、大丈夫だよ」って、』 ハハ、良隆くんに「先輩」って呼ばれてるのか。鈴香が俺のことを良隆くんに話していた時は「先輩」呼びだったんだな。 いや、そもそも鈴香の夢な訳で、当たり前なのかもしれないが。 『・・・・・俺も言ってもらった。「大丈夫だよ」って。・・・・いとこも、夏樹も一緒だった』 『いとこさん?』 断片的な夢の記憶を手繰り寄せ、俺は忘れたくない映像をぽつりぽつりと言葉にして、鈴香にも聞いてもらった。 良隆くんの宝石の話に当然鈴香は反応して、「・・・・元気な色の石が、」と泣き笑いで繰り返した。  
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