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『私が、あんな所で落ちちゃった所為で・・・・』 『いや地震があったのも警告灯が消えたのも鈴香のせいじゃないから』 『でも、』 『責任なんか感じて欲しくない。鈴香のためなら何でもしたいけど、それで縛り付けたいとは思わない』 『そっ、そんな、』 『ああ、でも、少しだけ我が儘言っても良いかな』 『?』 『今だけ、「鈴香」って呼んで良い?』 『あ、・・・・』 彼女はパクンと口を閉じて視線を下げ、うろうろと視線を彷徨わせた。自分もさっきから俺のことを「先輩」と呼んでいるのを認識したのだろう。 『えっと、・・・・じゃあ私も、「先輩」で。ふっ、2人だけのとき限定、ですけど』 『鈴香』 ああ、心が軽い。 体は動かないけど、胸は浮き立つようだ。 『鈴香、可愛い』 『!!! なっ、わ、私っ、すっぴん!』 ぽろっと出た心の声に、鈴香はボボボと顔を赤らめた。ああ、化粧をしてないから余計に可愛く見えるのか。 『あの、私、昨日のままでっ、・・・・柚奈さんが、あの、』 鈴香がぺたぺたと両手で顔を触りながらゴニョゴニョ言っていると、ノックの音が聞こえて「失礼しまーす」と女性の声がした。 「あ、お目覚めですね。ご気分はどうですか?」 看護師という仕事をしていると病室での様々なドラマを目撃するのだろう。明らかに動揺した、しかも泣いた後と分かる鈴香の顔にチラと視線を向けたものの 全く気にしない様子で 『お熱計らせてくださいねー』 と俺の入院着の袷から体温計を潜り込ませ、ついでのように指先にパルスオキシメーターをつけた。それから点滴の量を確認し、ようやくニッコリと鈴香に微笑みかけて 『大変でしたねー。彼女さん、お休みになってないでしょう?』 『え、あの、か、彼女じゃ、ないです』 『あら~、そうなんですかぁ?』 わたわたと否定する鈴香に、看護師は口元に手をやって笑う。人が死にそうになった後と言うのに、なんだこの軽さは・・・・と呆れたが、そういうのが病院の日常なんだなと思い直した。
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