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『先生お呼びしてきますね~』
体温も血中酸素濃度も問題なし、と見た看護師が軽やかにそう言い残して医師を呼びに出て行くと、
『あっ、柚奈さんに連絡しないと!』
と鈴香がスマホを操作し始めた。
『柚奈、俺がここに居るって知ってるのか?』
『当たり前です。先輩のご両親も、入院の手続きやら必要な物の準備とかで出られてますけど』
事故のパニックの状態でも鈴香は柚奈に連絡をしてくれて、柚奈は仕事上がりに一緒にいた婚約者の車で病院に駆けつけた。柚奈から両親に伝わって祖母も連れて病院に駆けつけ、手術中には優樹さんたちも・・・・・・って、
大勢過ぎるだろ。
手術後に俺の意識が一度戻ったので、安堵した両親たちは柚奈だけ置いて一旦帰宅したそうだ。それから朝に病院に戻り柚奈と交代したが、鈴香は目覚めるまで俺の傍に居ると言って付きっきり・・・・・うわ。
嬉しさと同時に申し訳なさがこみ上げてきた。
『ありがとう。でも鈴香も休まないと。俺はもう大丈夫だから』
起き上がれないまま窓の外へ視線を遣ると、日の光に黄金が混じっている。もう夕方近いのだ。名残惜しいが昨夜から緊張続きの鈴香は、疲れが溜まっている筈。
『・・・・はい、でも』
ダン、ガチャッ
『翔真! 目が覚めた?』
そこへノックもせず病室の扉が開かれ、母さんがパタパタと入ってきた。荷物を抱えた父さんも後に続く。
『どう? 痛む? 何処が痛い? 頭大丈夫?・・・・母さんよ、分かる?』
畳みかけて尋ねた挙げ句、母さんは俺の顔を見て眉間にしわを寄せる。俺の反応が薄いのを、もしかして記憶喪失? と想像したらしい。
『分かるよ、母さん五月蝿い』
鈴香と2人の世界だったのに、現実に引き戻された気分なだけだ。
『酷い。心配したのに。
ああ、鈴香さんありがとう、ずっと付いててくださって。疲れたでしょう?』
昨夜から母さん達と鈴香がどう対面してどんな話をしていたのか、俺はまだ知らないが。取りあえず険悪ではなさそうだ。
『いえ、あの看護師さんがさっき、お医者様呼んでくださるって』
鈴香がそう言い終わらないうちに、ちゃんとノックの音がして、
『失礼します。速水さん?』
初老の男性医師が入ってきた。
夜中に運び込まれた俺の手術を担当したのは別の外科医らしいが、頭の裂傷や脚の骨折の状況、今後の治療のことなど丁寧に話してくれる。両親は既に一度聞いた話らしかったが、鈴香は聞くだけでも恐ろしいらしく、顔を強ばらせて
『な、治るんですか?』
と医師に尋ねた。
『治りますよ。運良く専門の医師が当直でしたから最適な処置が早く出来ました。入院は1ヶ月を見ていますが、リハビリも含めて3ヶ月ほどで』
ほっと肩の力を抜いた鈴香だったが、“3ヶ月”という言葉に再び顔を曇らせる。
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