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『申し訳ありません! 私の所為で翔真さんを、そんな長い間、』 医師が去った後、鈴香は両親に向かって頭を下げた。 『翔真さん、お仕事が大好きな方なのに・・・・』 確かに仕事をするのは好きだし、当分会社に行けないのは辛い。 が、「辛い」一番の理由は「オフィスで鈴香に会えないから」だ。 『もう! 謝らないでって、何度も言ってるでしょう? 事故なんだし、この子が自分から飛び込んだわけだし』 母さんが俺が口を開くより先に鈴香を宥めてくれる。 交通事故だったから、目撃情報なんかも集められてるのだろう。 『でも私が、落とした本を諦めてさえいれば』 『まあねえ。でもすぐそこに見えてたら取りに行ってしまう気持ちも分かるわ。今回はいろいろと最悪のタイミングだったのよね』 きっと鈴香はもの凄く後悔して、昨夜もうちの両親に謝り倒したのだろう。母さん達が彼女を責めたりしなかったようで、心底ほっとした。 『貴女を助けて名誉の負傷と呼ばれるんなら、こいつにとっちゃ3ヶ月は軽いもんでしょう』 父さんが俺を顎で指した。 『あまり恩に着せて、調子に乗らせてはいけませんよ』 『乗らないよ。ちょっと息子の評価酷くない? 父さん』 ああでも確かに、怪我のおかげで鈴香が傍に居てくれたのを喜んでいる俺が居る。 『さあ、鈴香さんも大変な目に遭って、疲れたでしょう。主人が車で送って行きますから、帰って今晩はゆっくり休んでくださいな』 『・・・・はい。あの、でも電車で』 『もし。もし気が向いたら、また顔を見に来てやってくださるかしら』 『は、はい! ご迷惑じゃなければ、是非』 鈴香は母さんにそう言って、此方に不意に笑みを向けたから、俺は緩んだ口元を慌てて引き締めた。 『来てくれると嬉しいけど、無理はしないで』 『私は大丈夫です。 あの、何か持ってきたら良い物とかあったら、ええと、電話してくだされば。・・・・メールでも結構ですし』 『ん?・・・・・ああ、うん。そうする』 着信拒否を、解除してくれるらしい。 『翔真、ニヤけ過ぎよ』 『・・・・・・・・・。』 母さんだって――、と思いながらも唇に力を入れた。鈴香は遠慮しつつも説得され、父さんの車で帰ったあとだ。
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