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翌日。 日曜ということで鈴香がさっそく見舞いに来てくれた。 水口課長夫妻も一緒だったが。 『鈴香を助けていただいたそうで、本当にありがとうございました』 以前ひったくりに遭った翌朝とは別人のように、華さんが恐縮して俺に頭を下げた。 『この子が工事現場の穴に落ちたりするから・・・・』 『地震で揺れたから、足を取られたんでしょう』 『バリケードくぐり抜けるなんて。まったくもう、いい大人が』 “華ちゃん”に頭を掴んで揺さぶれ、鈴香はされるがままにしゅんとなっている。昨日からたっぷり説教されたと見た。 『俺がもう少しさっさと動いてたら良かったんです。木花さんに怪我が無くて良かった』 鈴香を叱りながらも、華さんと水口課長が彼女の無事をどれ程喜んだか、想像に難くない。前に見たとき同様、華さんは鈴香にくっついて立っている。 『話を聞いてぞっとしたよ。間一髪で、命も危なかったと』 水口課長がベッドの傍に立って心配そうに俺の顔を見た。 『そうらしいですね。そう言えば発電機だか鉄材だかが落ちてきて、突き飛ばされたような・・・・。 あれに助けられたような気がしますよ』 良隆くんが、守ろうとしてくれたのかもしれない。 『部長には電話したが、正式な報告は月曜に聞くって。急がないけど、診断書をもらっておいてくれるかな。また鈴香に取りに来させるから』 『・・・・、お手数をおかけします』 『とんでもない。俺からも、お礼しかないよ』 『あ、あの、痛みはどうですか?』 『うん、痛み止めが効いてるよ。昨日は眠れた?』 おずおずと尋ねてくる鈴香に微笑みかけると、ようやく「はい」と明るい顔を見せてくれた。鎮痛剤より鈴香の笑顔の方が効き目がある。 俺のポストがどうなるかはまだ分からないが・・・・と、課長が仕事の話を続けていると 『あの、何か温かい物買ってきましょうか』 鈴香が自販機に行くと言い出した。 『私も行くわ。この病院、隣に良い店があったわよね』 有名な珈琲の店を見かけたらしく、テイクアウトしてきてくれると言う。 『先輩、ハウスブレンドで良いですか?』 普通にそう尋ねた鈴香に、水口課長がふと顔を上げた。
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