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『・・・・・・・それ、照れるほど嬉しいか?』 鈴香達が出て行った後、俺の顔を見て水口課長が首を傾げた。 『「先輩」って。名前で呼ばれる訳じゃなし』 『すみません』 『いや、失礼。ふたりの間のことだし、俺の感覚とは違うんだろうけど。・・・・下の名前では呼ばせてなかったってこと?』 『好きだったんですよ。彼女に「先輩」って呼ばれるのが』 それまで軽い付き合い方をしていた女達が、直ぐに”翔真、翔真”と馴れ馴れしく呼んできた所為もあるが。 『俺、ガキだったんで。年上ぶって喜んでたんでしょう』 素直な瞳の彼女が、「先輩っ」と俺を見上げてくるのが可愛くて仕方なかった。 『ふうん、微笑ましいとは言えるけど。それなら職場で呼ばれても怪しまれないな』 『怪しい関係では・・・・』 『変化があったんじゃないの? 文字通り、怪我の功名』 『そんなの、』 『言い方が悪かったかな。けど速水くんの気持ちが行動に表れた訳だから、鈴香の心が動いても良いと思って』 『・・・・・・着拒は、解いてくれました』 『ハハッ、』 今か、と笑う水口課長。その顔にふと、夢で見た少年の面影が被った。 『鈴香が工事現場に取りに入ったのは、本を拾いに、だったんですよね』 『ああ。酔っ払いにぶつかられて落としたんだって』 『それ、見てました。・・・・もしかしてあの本ですか?』 『うん。俺が貸してたけど、自分でも持ってたいからと買いに行ったそうだ』 やはり。 それは、彼も必死で助けようとする筈だ。 『元カレを引きずってる女は駄目かい?』 『まさか。・・・・・いや、相手によるかもしれませんが』 『「生き別れより死に別れ」ってのもあるからな。死んだ者は美化されやすいし、忘れるのが後ろめたくもなる』 『忘れることなんかない。それに・・・・』 『・・・・・・、「それに」?』 ―――「また会える」って言えば、頭の打ち所が悪かったと思われるだろうか。
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