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『鈴香、ごめん意地悪言った』
『嫌なんです。私、勝手ですよね、ごめんなさい。でも、嫌なんです』
『泣かないで、鈴香。俺、居なくならないから』
『先輩まで、い、居なくならないで・・・・・もう、わ、私を置いてっ、いかないでっ』
涙が止まらなくなった鈴香。「俺まで」と言う言葉に、良隆くんを失った時の恐ろしい失望感が想像された。
『居るよ。ここに居るから。泣かないで。
鈴香、顔を上げて、俺を見て』
『うっうぅ~~っ、せ、先輩ぃ~』
『良隆くんも、居るから。分かるだろ? 彼は居なくなってない。感じるだろう?』
『でっ、でも私、寂しくてっ。此処に、居てくれない、からっ』
『鈴香、もうちょっと、こっちに』
俺が動きやすい方の手を伸ばして鈴香の頭に触れると、彼女はすり寄るように近づいてきた。
そのままゆっくりと髪を撫でる。
『ごめん、俺で。でも良隆くんが撫でろって言ってる』
『・・・・・、フ、』
少し笑ったようだ。
彼女はそのまま小さくしゃくり上げながら、しばらく大人しく撫でられていた。
『また会えるって、良隆くんが本当に言ってたんだよ。・・・・俺の夢の中で・・・・やたらクリアに覚えてる』
『・・・・・・手紙のこと、聞いたんですか?』
『手紙?』
撫でられている頭を少しずらして、俺の顔を覗おうとする。
『圭介さんから、良隆くんの手紙のこと』
『いや? 水口課長からもいろいろ教えてもらったが、手紙というのは覚えてない』
『先月、彼の命日に・・・・水口のおばさまから渡されたんです。良隆くんが私に書いてくれてた、手紙』
どうやらタイミングを見計らって鈴香に渡すよう、良隆くんが母親に頼んであった物らしい。
本当に彼は、鈴香のためにいろいろと心を尽くしていた。課長の話にもあったが、鈴香が彼の世界の中心だったのだ。
しかし俺が手紙の存在さえ知らなかったと言うと、
「そうなんですか」と鈴香は頭を戻して、また「そうなんですか」と小さな声で繰り返す。
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