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『留学を終えてこっちで働き出してからは、たまにあのあのマンションまで車でふらっと行ったりもしていた』
『え、・・・・・・・・来てたんですか? 先輩が?』
『ストーカーってほどじゃ無い・・・・と言いたいが。何かしようとしたわけじゃ無いしね』
目を丸くする鈴香に、怯えられないかと一瞬不安になったが。幸い彼女は純粋に驚いているだけで、眉を潜められる感じではない。
『だからごくたまに、鈴香の姿を見ることが出来た日も・・・・良隆くんと一緒のところも見たこともある。離れた所で車の中から、指をくわえて見てたわけだよ』
『ちょっとその言い方は、違いますよね』
『違わない。当時はもの凄く彼が羨ましかった』
『・・・・・・、ええ~~』
もう手の届かない存在だと思っても、どうしても忘れられなかった。
『3年前に突然ペルーに派遣されて、一年近く戻ってこられなかった。そして帰ってきたら、鈴香があのマンションから消えてて』
『引っ越した頃ですかね』
『そしたら、百合ちゃんが何かの折にアズミの社報を手に入れてて』
『ああ、お医者様なら、』
『そこに鈴香の名前を見つけたって教えてくれたんだ』
『ええっ? そう言えば2、3年前に2課の記事が・・・・。わぁ、凄い偶然』
純真な鈴香は嬉しそうに目を輝かせたが、それから「あれ?」という顔になった。
『・・・・・・え、じゃあ先輩は、私が以前からアズミに居るのを知ってて?』
『まさか俺が知らずにアズミに出向して来たと思ってた?』
『私より早くに知ってたんだろうなとは、思ってましたけど』
『出向するはずだった社員がアクシデントで来られなくなって。そうなると我慢できずに、志願した』
『――っ、そ、そうだったんですか。じゃあアズミとセブン・シーズの提携が決まったおかげで・・・・・・?』
頬を染めた鈴香が、俺の微妙な笑みに気づいて小首を傾げた。
『そもそも提携の話から、だけどね』
『?』
『セブン・シーズが自社ブランド立ち上げを考え始めたから、先を見据えて提携先を探したんだ。そしてアズミは条件にかなってた』
『ちょっ、まさか、先輩が絡んでたんですか?』
『まあちょっと』
鈴香が唇をかんで体を固くした。まさか自分の会社とセブン・シーズとの提携のきっかけが自分だとは、想像していなかったのだろう。
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