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数秒呆けてしまった俺に、鈴香が慌てて言い直してくる。
『べ、べつに助けてもらったからコロッと――って訳じゃないですよ!? ・・・・いえ、ある意味そう、なのかな?
落っこちたあと先輩が来てくれた時、私もの凄くほっとして、他の誰でもなくて先輩だったのが、嬉しくて・・・・』
自分の記憶をなぞって心を確認するように、ゆっくりと言葉を並べる鈴香。
『・・・・・鈴香、本当に?』
『本当、だと、思います』
『「思います」?・・・・や、うん、良いや。チャンスをくれるんだよね』
『そっ、・・・・・・私が、先輩と居たいんです。・・・・好きだから』
『――うわ、』
鈴香の顔が熟した桃みたいに赤くなって、ついにはサクランボみたくなって。俺は自分の胸がドクンドクンと響きだしたのを感じる。
ベッドの上の鈴香の手に俺のを重ねると、ビクッとされたが逃げられはしなくって。
『・・・・俺、死ぬなら今が良いな』
『せっ、先輩っ! 「居なくならない」って、言ったばっかりじゃないですか!!』
『ハハ、ごめん。幸せ過ぎてつい』
幸せ過ぎて目眩がする。血流が良くなりすぎて頭とか脚とか、傷口を縫ったところから血が噴き出すんじゃないだろうか。
それでも病院に居るんだから、死ぬ前になんとかしてくれるだろう。
―――『フフ、死なないよ。死んじゃだめ』
どこかで良隆くんが笑った気がした。
『も、もう。3ヶ月の重傷で、何が幸せ過ぎるんですか』
『3ヶ月なんか。これから鈴香と居られる時間の何十分の一じゃないか』
『――っ、』
何とも言えない複雑な表情は、もしかして照れているのだろうか。可愛すぎて抱きしめたい気持ちがこみ上げるものの、体の自由が効かないのでそれは叶わない。
まあ「今はまだ慎め」という戒めだと己に言い聞かせる。いつ看護師が現れるか分からない病室だし。
『鈴香にも幸せだと思ってもらえるよう尽くすよ』
柔らかな手を包み込むと、俺の手のひらの中で彼女の指輪の感触がふと気になった。
そうか。
この気持ちを忘れないように――― 目にしたら直ぐにこの誓いを思い出すために、男は指輪を恋人に指輪を贈るべきなのか。
『約束する。』
俺はそっとその手を取って、親指でその澄んだ輝きの石を撫でた。
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