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「木花さん、速水君にこれ頼む」
カシャカシャと必死にタイピングをしているとバサリと右側に大きな封筒が置かれた。結構重そうな音がしたぞ?
「マルさん、これメールじゃ駄目なんですか?」
「出力でって頼まれた。見比べやすいからって」
上にポンとクッキーの包みを置かれ『分かりました』と笑顔で返事をする。ロッカー室に丈夫そうな紙の手提げ袋があったから、あれに入れて行こう。
「ハナ、坂本クリニックに行くから乗せてくぞ。通り道だろ? 早めだけど飯食っていこう」
「あ。ありがとうございます」
向かい側から顔を覗かせて金崎さんが誘ってくれた。診療時間の終わりに合わせて営業に行くから、ちょうど良い時間だ。
「先輩、こんばんは」
ノックをしてドアを開けると、タブレットから顔を上げた彼がぱっと嬉しそうな顔になった。最近2歳上の人がやたら可愛く見えてしまっておかしい。
「さっき金崎からメッセージが来て。鈴香に惚気聞かされたって」
「嘘です。さんざん冷やかされたのに」
「ハハ、」
紙袋をベッドサイドの棚におくと、チョイチョイと手招きされる。近づくと腕を取られて、顎を突き出された。
「ん。今日もリハビリ頑張ったから、ご褒美」
「・・・・・・。」
仕方ないなあ、と唇に触れるだけのキスをして。照れる私の顔に先輩は満足そうに笑みを深めた。
リハビリが想像以上にキツイとこぼす先輩に応援の気持ちで一度私からキスをして以来、こうして毎回せがまれるようになった。半月ほど前に8年ぶりのキスをした時にはあんなに大人の男らしく振る舞ってたくせに、このところ私に甘えてくるのはどうしたことか。
・・・・母性本能をくすぐられてしまうんですけど。
「晩ご飯はしっかり食べました?」
「ああ。体動かすようになったから、食欲は増した」
「良かったです。はいこれ、マルさんから」
紙袋から資料の詰まった封筒を取り出すと
「サンキュ、重かっただろ? ごめんね」
と、さほど悪くも思ってない顔で受け取ろうとする。社用車で来たのがバレてるからか。
「先輩、傷病休暇中なのに仕事してるんですか?」
「傷病手当は出てるからね。それに仕事というより勉強だよ」
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