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「・・・・・・鈴香」 半ば覆い被さるように緩く抱きしめられ、噛みしめるようにそう言われてドキドキする。 湿布の匂いに混じって先輩の匂いがする。 ちょっと体勢がきつかったけど、しばらく彼の体温を感じてからゆっくりと体を起こすと目が合って そっと押しつけるように額にキスをされた。 「あー、・・・・早く治したい。こんな体じゃ、せっかく鈴香が心を許してくれたのに何も出来ないし」 「何もって、なんですか」 人にキスをせがんだりしてるくせに。先日はキスが深く熱くなりすぎて、つい無理な姿勢を取って痛みに声を上げたから、懲りてるとは思うけど。 「取りあえず早く退院したい」 「そうしたら当分ご実家ですか? 退院しても当分松葉杖でしょう?」 「まさか。それじゃ鈴香に会えないじゃないか」 もう一度、今度は頬に軽くキスをして漸く放してくれたから椅子に座り直す。 先輩は現在の総合病院から紹介され、タクシーのワンメーターで行けるクリニックにリハビリのため通うことになったそうだ。 当分は車を運転できないし、満員電車も無理だろう。アズミに出社出来るようになる時期は今のところ未定だ。 「社員が1人欠けたからって仕事が回らなくなるわけないって。安曇社長が優樹さんに言ってたそうだ。さすが老舗の余裕だね」 余裕ではないですよ・・・・とは言い辛くなった。結構他の社員が頑張ってます。先輩の存在感、半端なかったですもん。 「リモートで出来る仕事はめいっぱい引き受けると課長には話してあるけど」 「治療優先です。早く完治して歩けるように、リハビリ頑張ってくださいね」 「分かってる。ご褒美よろしくね」 ・・・・もうね。 志保とかが見たら『誰?』って思うんじゃないかな。可愛い過ぎますよ先輩。 そう言えば志保は、私達の事を知ったとき肩をすくめて 『まあ鈴香を助けて大怪我したんだから、良しとしてあげるわ』 と眉を上げたっけ。 『鈴香は独りで生きていくタイプじゃないでしょ? 私は兄貴推しだったけど、田所みたいなのよりは速水氏が良いんじゃない?』 口では上から目線でも、3日に一度は『速水氏の怪我はどう?』と尋ねてくれるから、結構心配してくれていると思う。  
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