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それから1週間と少しして、 「ええ~。そんな、わざわざ来なくても」 うちの両親が先輩の見舞いに来ると言い出した。 私が原因でアズミの同僚が事故に巻き込まれたと、少し遅れて華ちゃんから聞かされていた両親。華ちゃんと圭介さんから 『揉め事にはなってないから親まで出てこなくて良い』と言われていたのだが その人と私が、相手の両親やセブン・シーズの社長である伯父さんの公認で付き合いだしたと言うことを留香から聞いて、どういう事かと驚いたらしい。 これは一度きちんと会っておこうと2人揃って来ることになった。 「この度は娘が大変なご迷惑を・・・」 個室なので病室に招き入れ、先輩は車椅子でうちの両親と対面することになってしまった。 「いいえ。怪我はトラックが飛び込んできた事故のせいですから、鈴香さんの責任では全くありません。 ・・・・こんな姿でお恥ずかしいのですが」 なにせ脚にギプスなのでスーツは着られない。先輩はそれでも綺麗な色のシャツにグレーのセーターを合わせた出で立ちで、ウエストから下は毛布を掛けて座っている。 痛むかも知れないのに真っ直ぐに背を伸ばして 「鈴香さんと正式にお付き合いをさせていただくことになりました。退院してからご挨拶にと思っておりましたが」 こんな格好で失礼します、と綺麗な角度で頭を下げた。 待合室から借りてきた椅子に腰掛けた父も、 「それはそれは、此方こそ急に押しかけて、失礼だとは思ったのですが」 と礼儀正しくお辞儀を返す。こんな場面は経験が無いので、私は非常に居心地が悪い。 「いえ、此方から伺うのではかなり先の事になってしまいますので、お越しいただけて有り難いです」 確かに、退院しても先輩が車を運転したり、電車で私の実家まで向かえるようになるには、まだ2ヶ月以上かかるだろう。 「そう言っていただけると。なにぶん娘が何も言ってくれないものですから」 「この子もいい大人だし、親がしゃしゃり出るのもどうかとは思ったんですけどねぇ。この子の妹がぺらぺら自慢げに喋るので、私達もお会いしたくなって」 「ああ、そう言えば。留香さん、夏にはご結婚でしたね。おめでとうございます」 「あら、ありがとうございます。 ・・・・それで、速水さん。鈴香と正式なお付き合いとおっしゃるのは」 期待の隠せない顔でお母さんが身を乗り出した。 「ちょっと。はしゃがないでよ恥ずかしい」 「ええ~~、だってあなたが言ってくれないから。こんな素敵な方といつの間に」 「だから、まだ1ヶ月も経ってないって」 だめだ浮かれてるわ、お母さん。 先輩が堂々としてて、格好良いからって。  
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