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「とにかく安心したわ。あんたもちゃんと速水さんに気持ちがあるようで」
駅まで送るついでに一緒に夕食を取った店で、お母さんがそう言って目尻を下げた。
「良隆くんのことも速水さんはご存じだと、華ちゃんに聞いてたから。いったい貴方たちどういう関係かしらと思ったのよ。もしかして鈴香が妥協してるのかと」
妥協?
どうしても結婚しなきゃいけないなら・・・・って?
「んー、妥協じゃあないけど。確かに良隆くんの事を忘れろなんて言う人とは、一緒には居られないでしょうね」
ちゃっかり回ってないお寿司をごちそうになりながら、私はそう頷いた。
「まあ、そうだろうな。
お前達にも紆余曲折あったらしいが、付き合うと決めたからには気持ちの整理がついているんだろう」
お父さんは珍しく日本酒なんか飲んでいる。基本土日は家に居るような人だけど、『何があって病院に呼び出されるか分からないから』とめったにお酒は飲まないのに。
「華ちゃんが、『浮気なんかしたら袋叩きに遭わされるって分かってるから、きっと鈴香を大切にしてくれるわ』って言ってたけど。・・・・あんたも速水さんを大切にね」
「うん」
クスクスと笑ってから、私はふと考えた。
「でもね、お母さん。私・・・・あの人がいつか他の女性を好きになっても、怒らないかも知れない」
「あら、そーお? ねえ、ハマチもうひとつ頼む?」
「ありがとう。・・・・それより、嘘を吐かれるのは嫌。そっちの方が裏切りよね」
「『浮気するならばれないようにしてくれ』っていう女性もいるらしいが?」
「浮気は嫌よ? でも本気なら仕方ないじゃない」
私は8年前、自分が浮気相手だったと思い込んで心が壊れた。
婚約者との絆のほうがよほど強かったのだと――― 彼女は私のことを知っていて、私は彼を疑いもしないまま騙されていた、と信じたのだ。
でも事実は違っていて。
まだ若かった彼と沙綾さんは、周りで嵐の海のように荒れ狂う波に大切なものが見えなくなっていたのだ。
そして先輩は、私に真実を告げなかったことをもの凄く後悔して、そして
私をずっと忘れずに居てくれた。
ストーカーと呼ばれるほど、私を気にしてくれていた。思い続けてくれた。
私はそれが嬉しくて、
褒められないことだけど嬉しくて。
先輩にとても感謝している。
8年も私のことを好きで居てくれた先輩が、
もしも
いつか他の女性に心を奪われたとしても、
私はこの感謝を忘れないでいたい。
先輩の幸せのために、心を濁すことなく誠意を持って向かい合えたらと思う。
辛くても悲しくても、憎んだりはしたくないと、心から思う。
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