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待ちに待った退院。 華ちゃんの悪阻も治まってきたことだし、これからは毎日でも先輩の部屋に通おうかと思っている。面会時間も終電さえも気にせずに、まったり出来るのを楽しみにしていたのだ。 「ありがとう、鈴香さん。嬉しいけど、この子をつけあがらせちゃ駄目よ。あなたの有り難みが薄れちゃうわ」 「どういう立ち位置なの母さん。 感謝は忘れないよ。それと柚奈と鈴香が相談して来てくれるそうだから、2人に任せておいて。柚奈も忙しいだろうし、浩太郎さんと一緒に居させてあげなよ」 柚奈さんの婚約者、戸崎浩太郎さんとは事故の晩にお会いしたけれど。ぱっと見コックというよりスポーツマンっぽい、くりっとした目に笑うと目尻の皺が優しげな男性だ。 「浩ちゃんとは毎日会ってるから大丈夫よ。暇な時に式の打ち合わせも新居の相談も出来るし」 「そう言えば柚奈ちゃんの彼、速水の姓になってくれるんだって?」 「え?」 大人な彼氏さんの顔を思い出していた私はつい声が出た。30歳をとうに過ぎた男性が名字を変えるのって、抵抗は無いのだろうか。 「店を継ぐんだから、その方が良いかなって。三男だし」 へえ、三男。浩太郎なのに。 そう思ったのが顔に出てたのか、先輩が 「長男が慎一郎、次男が竜次郎。ところが三男が生まれたとき、『3番目ってのがバレバレな名前は嫌がられるかも』とご両親が考えたらしい」 と教えてくれた。 名前をつけるのも大変だ。圭介さんと華ちゃんのベビーはどんな名前になるのだろう。とっても楽しみ。 「さて、そろそろ行こうか」 「荷物持ちが要るだろうと思ってきたのに、お邪魔なだけだったわね」 やはり百合さんは手伝う気満々で来てくれてたみたいだけど。今日着る服や洗面道具なんか以外は私が運んで終わってるから、中型のスーツケースと紙袋が2つのみ。 あとは厚手のパーカーを着た先輩が背負ったリュックだ。 「翔真のパーカー姿って久々に見るわね」 「うん、スーツかジャケットが多くなってから、パーカーなんか滅多に着なくなったから。違和感あるな」 「そうですか? 似合ってますよ」 髪もラフにしてるから、いつもより若く見える。リュック背負って、なんだか学生みたいだ。 松葉杖の先輩を3人で囲んでゆっくり廊下を進むと、女性の看護師さん達がわらわら出てきて『お気をつけて』『お大事に』と見送ってくれた。 やっぱり先輩、人気だったんだろうな。  
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