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百合さんのSUVで先輩のマンションまで送ってもらい、お母様に珈琲を淹れていただいた。 話は柚奈さんの結婚のことで盛り上がり、『鈴香さんも是非』と式にご招待いただいた。嬉しいけれどちょっと緊張する。 「うちのレストランでアットホームに、って案もあったんだけど。それだとスタッフをお客として招待できないからって、柚奈が」 スタッフの皆さんは柚奈さん達2人の晴れの日を自慢の料理とサービスで祝福したい。2人はお世話になっているスタッフの人達をもてなしたい。両方の気持ちがあったけれど、新郎新婦の意向を汲んで、ホテルで披露宴を行うことに決まったそうだ。 「柚奈さんの花嫁姿、楽しみですね」 「うふふ、母親としてはね、浩ちゃんに『前の嫁さんより綺麗だ』って思わせたいの。白無垢で神前式して、披露宴では打ち掛けでゲストをお迎えして、お色直しは・・・・」 嬉しそうに喋るお母様の目には力が籠もっている。花嫁の母は花婿の雇い主でもあり、別れた前妻の顔も知っていると言う。 「義姉さん、柚奈ちゃんから苦情聞いてるわよ。『お母さんが張り切りすぎて困ってる』って」 「柚奈は若いから逆に派手にしない方が良いと思うけどな」 百合さんと先輩はそんなお母様に少々引き気味だ。結婚は2人の問題だけど、家と家の関係でもある。おまけに 「戸崎さんの親御さんは養子に入るのを許してくれたんだから、ちょっとは気を遣いなよ?」 「『浩ちゃんは再婚だから宴は地味にしましょうね』って態度取るのが気遣い? 違うでしょ? 浩ちゃんはうちのレストランを背負って立つ人間になるんだから。『今後はただの従業員じゃあないですよ』って、改めて盛大にお迎えするのよ」 「モノは言いようだよな。浩太郎さんが気にしてなきゃ良いけど」 そこで先輩はふと言葉を止めて、ゆっくりと私を振り返った。 「・・・・鈴香のご両親って、もしかして『鈴香には医者の婿を』とか考えてたのかな」 「さ、さあ? 父は開業するつもりは無かったと思いますし、聞いたことないですけど」 「じゃあ、・・・・医者じゃなくても、鈴香には婿を取ってもらいたい、とかは?」 「えっ?!」 びっくりした。そんな話したこと無かったし。しかもお母様達の前だし。 「なっ、無いですけど。・・・・・・」 「あら、・・・そうよねぇ。・・・・鈴香さん、ごきょうだいは妹さんだけ?」 「は、はい」 「なら、翔真が木花の姓になるのもアリなわけよね」 「ちょ、ちょっと待ってください!」 私は両手のひらをかざして、先輩に向けて眉根を寄せて見せる。 「あ。・・・・ごめん、また順番を間違えた」
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