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そうですよ。 プロポーズの前にこの話って、おかしくないですか? ――― あれ? でも条件としては大事なこと? 「兄さんはそんなに気にしないんじゃないかな。翔真が七海さんと養子縁組しようとした時はちょっと嫌がったけど、それでも翔真の意志を尊重したくらいだし」 百合さんが語ったのは、それこそ8年前のこと。 優樹さんの命が危ぶまれた頃、先輩を七海の養子にしてセブン・シーズの跡継ぎに据えかけた話だ。 「あの頃は私も姉の気持ちが分かったから辛くって・・・・お父さんにも翔真にも嫌われるようなことをしたわ。でも、教訓を得たと思ってる。 今は母さん、翔真には望むようにに生きて欲しいと思ってるからね」 お母様の言葉に、先輩は数秒真顔で視線を宙に浮かせ、 それからゆっくり頷くと『ありがとう』と言った。 「まずは、俺が鈴香の許しをもらってからだな」 「まあ鈴香ちゃんと話し合って、それからよね」 「えっと、・・・・はい」 まるで私がラスボスみたいな言い方だけど、お2人がニコニコなさってるので頷いておいた。 「じゃあ鈴香さん、息子をよろしくお願いしますね。適当で良いから」 「またね、鈴香ちゃん。翔真、シーネはちゃんと着けておくのよ」 珈琲カップをきちんと片づけたお2人が帰って行かれると、私も先輩もほうぅ、と大息を吐いた。 「やっと帰った」 「そんな言い方・・・・、でもお疲れ様でした」 力関係では先輩はどちらにも敵わないと見た。それに退院したばかりだ。 「横になります?」 「いや、まだ良い。・・・・これ助かった、ありがとう」 先輩はソファに座り直すと、収納もできる椅子代わりのボックスにギプスの脚を乗せた。私が買って持ち込んでおいたモノだ。 「鈴香、座って。もっとこっち」 私を促して隣に座らせると、体をくっつけるように腕を引く。そして私の肩に腕を回し寄り添うように体重を凭せあうと、2人ともそのまま、ゆっくりと力が抜けてゆくのを感じた。 「・・・・こんな日が、来るなんて」 しばらくして先輩がぼそりと呟く。 「夢のようだよ。覚めそうで怖い」 どうやら私はかなり理想化されているんじゃないだろうか。“逃した魚”“隣の芝生”的な時間が長すぎて・・・・、いざ手元に戻ってくると 『あれ?こんなもんか』――って。  「・・・・私は先輩が夢から覚めるほうが怖いですけど」 「またそんな事言ってる」 意味が分かったらしい先輩は、回した腕で肩を抱く力を強めた。 そうやって『ずっと一緒に居たい』と伝えてくれる。  
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