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「それと、・・・・そろそろ満喫したからさ」
「何をですか?」
くっついているのを、かと思い体を離そうとしたけど肩を抱き戻されて、首を傾け顔を覗き込む。
「“先輩”って呼ばれるの。・・・・そろそろ、どう? 名前で呼ぶってのは」
「な、名前で、ですか?」
「家の家族に対しては“翔真さん”って言ってただろ?」
「それは、皆さん“速水さん”ですし。・・・・・・ええと、じゃあ、しょ、翔真さん」
「顔見て呼んで?」
「・・・・・・・翔真さん」
でれっ、と。
先輩、じゃない、翔真さんの顔の筋肉が緩んだ。
「次、呼び捨てで。」
「“翔真”」
「・・・・・・・。なんだろう、主従関係を感じた。今、俺、鈴香の下僕になった」
「“翔真さん”で! “さん”を、付けさせてください!!」
どんなキャラになってるの? この人の頭の中で、私。
「うん、どっちでも。時々は“先輩”も良いし・・・・。そうだ、俺を褒めるときは“さん”付けで、叱るときは呼び捨て、とか」
「叱るときって、・・・・子供?
楽しそうですね? せんぱ、翔真さん」
呼び方の話をしてるだけで、歌い出しそうにうきうきした顔をしてる。
彼曰く、日本人以外からは呼び捨てが普通だし、沙綾さんやみな美さんも呼び捨てにしてくるから“翔真”と呼んでくる女性はかなり多いのだそう。
逆に私からは“さん”付けのほうが『男心を擽られて良い』と言うのだ。
「もちろん、鈴香の好きに呼んで良いんだけど。“ダーリン”とか」
「じゃあせん、翔真さんは、私のこと“ハニー”とか?」
「良いよ、ハニー」
「止めましょう。此処は日本です」
「ハハッ」
よいしょ、と小さな掛け声で翔真さんは脚を下ろし、ソファの上で体ごと私に向かい合う。
「なんと呼ばれても良いんだ。俺、鈴香の声が好きだから。鈴香が俺を呼んでるってだけで嬉しいから」
「わ、私も・・・・せ、翔真さんの声、凄く魅力的だと思ってました。昔、初めて聞いた時から」
低めで、透明感と艶があって・・・・黒いガラスのような声。
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