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「ふうん、順調で何よりだわ。・・・・私カレーにしようっと」 志保がそう言って社食のチケットボタンを押した。私が昨日翔真さんの部屋でカレーを作った話をしたら、食べたくなったらしい。 「で、今日もいくの?」 「うん」 「バレンタインだもんね」 「・・・・・・うん」 8年前のレシピは忘れたし、同じモノを作ろうとは思わない。昨日のカレーも昔と違ってジャガイモ入りだ。 「手作りチョコとか?」 「ガトーショコラもどき作ったの。華ちゃんと」 「もどき?」 ケーキ屋さんのとは違う、簡単レシピのだけれど。華ちゃんがネット動画で見つけた作り方で、どっしりしっとり濃厚な味が私は結構好きだ。 「私の分は無いの?」 「あるよ勿論」 「やった!」 パウンド型で3つも焼いたから。圭介さんと翔真さんの分をラッピングしてもまだ沢山あって、私と華ちゃんも当然味見済み。 「はい、少しだけど」 「うふ、ありがと。3時のおやつにいただ」 「ああーっ 長谷川さん、ずるい!」 半透明の可愛い小袋に包んだケーキをミニトートから出して志保に渡していると、女子トークに割って入る声。 「ずるくない! 毎年もらってるのよ私はっ」 「でもっ。翔真さんより先にもらって、ずるいよ」 「そんなの気にするヤツじゃないんでしょ?」 「気にしないと思うよ?」 「・・・・・・・・僕が気にする」 トレーを持ったまましょんぼりする立石さん。中学生じゃあるまいし、友チョコと張り合うわけないじゃないか。 「アンタの分は無いわよ」 「もらえないよ恐れ多い」 「“恐れ多い”って。下僕なの?」 「違うけど。僕は・・・・翔真さんのファンなんだよ」 志保の額に「ケッ」と書かれたのが見えた。 立石さんは志保のファンでもあるらしいのに、志保の機嫌を取る訳じゃあないのね。 ファン心理も様々ということか。  
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