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「はい、鈴香にもあげる」 志保が色とりどりに包まれたボンボンチョコの入った小袋を私にくれた。赤と金のリボンで括ってあるソレは、同僚に配るよう用意されたものの1つだ。 「・・・・良いなぁ」 遠慮がちに私達とは椅子1つあけて座った立石さんが、物欲しそうに此方を見る。 「・・・・アンタのは無いわよ。3課で配ってる義理チョコと友チョコだから」 「うわ、僕も3課だったのに」 「2ヶ月前までね。アンタは販促のお姉様方からもらってるでしょ」 「・・・・あーあ、僕も3課だったのになぁ」 寂しそうな呟きは、演技と思えないほど。 志保の様子を覗うも、彼女はもぐもぐとカレーを食べ続けるだけで、不自然にも一言も発しない。 「・・・・志保? チョコ、余分持って来てないの?」 「わ、私がなんで、」 「配る用なら、多めに持ってきてるかなと思って。志保なら」 なんとなく、立石さんの分も用意してる気がする・・・・志保なら。こう見えて義理堅いんだもの。 「・・・・1つ、残ってるけど。 たくさんもらったでしょ? まだ欲しいの?」 「欲しい!」 ぎこちない感じで志保が聞くと、ピンと耳を立てた犬のように立石さんが即答した。 「しょ、しょーがないわね。後であげるわよっ」 「やったっ!」 キラン、と黒い瞳が輝いた。 満面の笑みでとんかつ定食を食べ出した立石さんとは対照的に、居心地悪そうな志保。 どういうわけか私を見ないその顔は、・・・・もしかしたら照れているのかも知れない。 「志保?」 「な、何?」 「食べたら休憩室行く?」 「あ。じゃあ飲み物おごらせてよ。長谷川さんのチョコのお礼に」 「ちょっ、大きな声で言わないでよ!」 「え? ああ、ごめん。でも3課じゃないのに長谷川さんのチョコせしめるんだから、お礼したいし。あ、ホワイトデーのお返しは別にちゃんとするよ?」 「い、要らない! 要らないわよっ」 「いや、させてよ、ホワイトデー」 うーん。 さすが立石さん、天然なんだか策士なんだか。  
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