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そして根性で志保からチョコをせしめた立石さんは、私にまで珈琲を奢ってくれ
「もう良いでしょ! あっち行って」
と冷たく志保に追い払われて休憩室から出て行った。
ところが廊下に出た所で3課のマエノさんに『僕も貰ったよ』と志保のチョコを見せびらかして行ったので、その声を背中で聞いた志保はヒイッと両肩を上げた。
「志保先輩、立石さんすごい笑顔でしたよ」
「ふんっ、アイツはいっつもヘラヘラ笑ってるでしょ?!」
そのまま休憩室に入ってきたマエノさんは、志保の剣幕にちょっと目を丸くしたが、立石さんへの塩っぷりには慣れているのか『まあそうですけどねー』と笑って流して。
「志保先輩、またこの間のお店、連れて行ってもらえませんか?」
にっこり可愛くおねだりしてきた。くりっとした瞳にストレートの黒髪のこの後輩は、志保イチ推しの女の子。当然志保が機嫌を直して『良いわよ、いつでも』とOKすると
「実は、私が自慢したら、サトシくんが自分も行きたいって」
と申し訳なさそうに両手を胸の前で合わせる。彼氏のタカノくんのことだろう。
「あら、じゃあ2人で行けばいいのに」
「いえ、是非志保さんと呑みたいんですって。最近ゆっくりお話できてないからって」
「えー、可愛いこと言ってくれるじゃない」
そして彼氏であるタカノくんも“観賞用”としてお気に入りだった。ふつうなら『カップルを前に呑むなんて』と思うところだろうが、お気に入りの2人に慕われて、志保からは隠しきれない嬉しげな空気が漂う。
「・・・・・・・?」
ところが私は、マエノさんの口元に少し力が入っているのに気づいた。
「マエノさん? 3人で呑むの?」
「え? あ、すみませんっ、よかったら木花さんもご一緒に!」
「ううん、そうじゃなくて」
「鈴香も行く? 去年の夏に行ったワインの種類が多い店だけど」
「いや、ごめん。今はちょっと」
「そうよね。速水氏の世話で忙しいもんね」
「ちょ、志保!」
2課では私が翔真さんの病院に頻繁に通っているというのは知られていたけれど。そして何となく私たちの交際も知られているようだけれど。
水口課長の弟、良隆くんとの関係を知る人達も居るせいか、目を輝かせて私にあれこれ聞いてくる人は今のところ居なかった。
だからマエノさんは知らないんじゃ・・・・
「やっぱりそうですよね。速水さん、退院なさったばかりですもんね?」
「え? ええ、・・・・あれ? マエノさん、知ってる?」
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