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「翔真にも電話したわよ? いつ仕事に復帰できるのか聞こうと思って。そしたら・・・・」
そこでみな美さんはじっと私を見て、それからわざとらしく大きな溜息を吐いた。
「駄目ねアレは。頭の中お花畑。もう、アンタ誰?って思ったわ」
「ぷっ」
隣で志保が小さく吹き出す。
「それは、・・・・なんか、すみません。でも勉強とかも結構してますから」
「そう?・・・ふ、」
私がつい庇うと、みな美さんが視線を外して柔らかく笑う。そして
「じゃあ、早く仕事復帰出来るようお尻叩いてリハビリ頑張らせてちょうだい。あんまりアズミに迷惑掛けないようにって」
目力の強い瞳を少し細めてそう言うと、
踵を返し休憩室を出て行った。
「みな美が? ふうん、ありがと」
夜、翔真さんの部屋を訪れて預かった紙袋を渡すと、あっさり受け取ってテーブルの足下に置かれた。そしてまだ受け取っていない私の荷物を凝視する。私はエコバッグをちょっと持ち上げて見せ、
「リクエスト通り、ハンバーグの材料買ってきましたから」
と言ってキッチンに入らせてもらった。
「ん、我が儘言って悪いね」
「昔とレシピは変わりましたよ?」
昨日のカレー同様、8年も経てば味も変わる。それでも
「どんなのでも。鈴香が作った料理を食べられる幸せ、噛みしめたいんだ」
また甘いことを言う。
確かに、昨日のカレーもよく噛んで食べてた気がする。昔は随分と早食いだったのに。
「・・・・みな美さんには、なんて言ったんですか?」
タマネギの皮を剥きながら尋ねると、『ん~』と首を傾げるおうち仕様の翔真さん。
「気にしてくれるんだ?」
「べ、別に? ただ、呆れられたから」
「呆れ・・・? 別に、近況報告しただけだよ? 晴れて鈴香に想いを受け入れてもらえた、って」
「・・・・はあ、」
「あと、鈴香は優しいから入院中もいろいろ身の回りの世話してくれたし、退院しても近所だから部屋に来てもらえるって」
「――っ、」
「そしたら『せっかく来てもらえても松葉杖ついてるんじゃ襲えないわね』って言われたから、『襲う必要ないし、お楽しみはたくさんある』って言っといた」
「おっ、・・・・ぅ~~~、」
なんだろう。とっても恥ずかしい。
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