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  「・・・・昔貰ったヤツは、食べられなかった・・・・」 2月14日。8年前の今日、私達は別れたのだ。 私には良隆くんが現れてくれたけれど、この人は毎年この日に苦い思いをしてきたのかも知れない。 「さ、食べてください。志保には好評でしたよ?」 少し沈んだ空気を払うように明るい声でそう言うと、 「長谷川も食ったのか」 一瞬がっかりした声になって、少し笑った。 それでもフォークで大きめにすくい取った塊を口に運んだ翔真さんは、もぐもぐしながら嬉しそうに瞳を細める。 「どうですか?」 「幸せだ」 味を聞いたのに。 「最高。甘さ加減も口当たりも」 そう言って蕩けそうな顔で再びフォークを動かす姿に満足して、浮いていた腰を落とした。 「鈴香の分は?」 「味見はしましたけど、これはプレゼントですから」 「はい、」 珈琲カップを口に運ぼうとした私に、翔真さんがケーキの刺さったフォークを突き出す。 「ほら、落ちるよ」 「わわっ、」 本当に抜け落ちそうになった黒っぽい塊に、妙な姿勢でぱくりと食らいついた。 「んんっ、――んふふ、美味しい」 「ハハッ、」 自分で作っておいてなんだが、ほろ苦さと甘さとが絶妙なバランスでカカオのコク、香りも言うこと無し。 材料のチョコレートを奮発して良かった、とほくほく喜んでいると、 「これから毎年、貰える」 私よりもうきうきした声が聞こえてきた。 「手作りでなくても良いから。こうやって一緒に食べられるのが良いな」 “これから毎年”――か。 そんな約束が可能なことが未だに信じられない気持ちが、ぷくんと泡のように浮かび上がる。 「鈴香?」 「・・・・じゃあホワイトデーも、一緒に食べられるデザート、用意してくださいね?」 「よし、楽しみにしておいて。手作りは無理だけど」 上機嫌でもう一口ケーキを頬張る可愛い人。入院してから髪を切ってないから、下ろした前髪が少々重たい。 それはそれで今時の芸能人っぽくて色気倍増なんだけれど。 「それと、鈴香。土曜の昼から出かけられる?」 そう言ってまたケーキを私に食べさせながら、翔真さんはさらりと提案した。 「タクシー呼ぶから、指輪、見に行こう」
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