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「どう思う? 良隆くん」 私の部屋の棚には、相変わらず優しい人の写真が置かれ私の相談相手になってくれている。 「良隆くんの指輪、外すなって言ってくれるのは嬉しいんだけど。・・・・無理してないのかな」 寝る前に良いというハーブティーのカップを両手で持って、年を取らない彼の柔らかな笑顔に問いかける。 そうやってしばらく見つめていると、雑念が溶けて消えて核になるものが見えてくる気がするのだから不思議だ。 「・・・・翔真さんがそう言うんだから、私が反対するのも失礼か」 時が来れば今の指輪は外すと告げた私に、『どうして外す必要がある』と翔真さんは問うた。 ―――『とても似合っているし・・・・外すなんて勿体ないって思えるんだよ。だから、着けていてくれないか』 「だからって婚約指輪をオーダーメイドにするのも凄い発想だけどね」 貧乏性の私は受け入れるのに時間がかかったけれど、 『高級車や絵画にお金を注ぎ込む人たちだって居るのに、一生に一度の婚約指輪を奮発したからって怒らなくても』 と言われて項垂れた。 ―――「良いと思うよ?」 意外にも肯定的な優しい声が耳に響いた気がした。 ―――「きっとその価値は色褪せないから」 ・・・・・・そうだね。 あの人の優しさが詰まった指輪。一生大事に、大事にしよう。結婚してもしまい込まないで、お出かけの時に付けたりしよう。 そういうデザインにしてくれた。 「明日はね、お昼は近所のラーメン屋さんに行って、あとはおうちデートなの。夜はヘルシーにお鍋かな」 こんな話を良隆くんに聞かせるのが嬉しいって、どうなんだろう。 けど、私の幸せを喜んでくれると分かっているから、聞かせたくて声に出してしまう。 本当に、元カレというより双子のきょうだいみたい。 そして 「この間華ちゃんちで食べた豆乳鍋も美味しかった。もう悪阻も治まって何でも食べられるようになったって」 そろそろ安定期。友江薬局の紗奈さんにも機会があればお知らせしようと思っている。男の子か女の子か、分かってからが良いかな。 「男の子だったら・・・・期待しちゃいそう」 また会えるって言ってくれたんだってね。そう呟いて写真を見つめてみたけれど、柔らかく細められた瞳は『まだ秘密だよ』と言っているようだった。
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