<23>

29/39
前へ
/1062ページ
次へ
それから少しして、翔真さんが職場復帰することになった。ラッシュアワーの通勤なんて絶対無理だと思っていたら、送迎を着けられる事になったのだ。 「水口課長を運転手にだなんて、」 恐縮する翔真さんに『向井課長の差し金だよ』と圭介さんは眉を垂らした。 「部長が『速水君はまだ来られないのか』って聞くから『運転できないし松葉杖で通勤時間の電車は無理でしょう』と言ったら、 『水口課長が近所だから送り迎え出来る筈だと向井君から聞いた』って」 隣の課の課長なのに、なに告げ口してるんだろね、と圭介さんは苦笑い。 「リハビリは優先させて良いし、病院には外回りの誰かに送らせるようにするよ。希望者は多いだろうから」 「そんな、自分だけ優遇していただくわけには」 「優遇? 君まだ傷病休暇取れる状態なのに出勤させられるのが“優遇”かい? 部長や向井課長が君の顔を見たいだけだろう」 という訳で、自宅でセブン・シーズの仕事をしたり薬に関する勉強をしていた翔真さんの傷病休暇は切り上げられ、アズミに出勤することとなった。 私はと言えば一緒に圭介さんの車に乗せて貰えることになり、少し朝が早くなったもののラッキーだったりする。それに昼間も翔真さんと同じ空間に居られるのだ。嬉しいけれど、周りの視線が・・・・しばらくは恥ずかしいかもしれない。 「2人が付き合ってるってまでは皆知ってるから、覚悟しておいて」 ミラー越しの視線を後部座席の翔真さんにあて、水口課長が告げた。どうやら私よりも翔真さんが質問攻めに遭うらしい。 「一応当たり障りの無い答えは用意してます」 8年前の事まで話すことは無いと打ち合わせ済みだ。同じ大学で同じサークル、でもただの先輩後輩だった2人が偶然出会って、翔真さんからのアプローチで付き合うようになったという設定。 「あー、来た来た」 始業時間よりかなり早く着いたのに、ドアを開ける音に反応して向井課長が3課から顔を出した。 「向井課長、お早いですね」 「息子を朝練に送っていくとこうなるのよ~。速水くん久しぶり」 「お早うございます。向井課長、その節はお見舞いありがとうございました」 「ちゃんと連れてきましたよ。松葉杖なのに」 翔真さんは片側だけだけれどまだ松葉杖を使っている。それでもちょっとの距離なら杖を使わず歩くのだけれど。
/1062ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14901人が本棚に入れています
本棚に追加