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「だってぇ、木花さんといちゃいちゃしてるとこ早く見たくって」
「い、いちゃいちゃなんてしませんから!」
付き合いだして2ヶ月でプロポーズを受けたことは会社では内緒で、婚約指輪は外して出勤している。
「だって、怪我した彼氏にあれこれ世話してあげてたんでしょ? 夜も通って」
「向井課長、それ以上言うとセクハラですから。朝から何を、」
「えー、晩ご飯とかお風呂掃除の話よ~、何想像してんの水口くん」
ニヤニヤして喋る向井課長に溜息を吐いてジロリと睨む圭介さん。翔真さんはわざとらしく松葉杖に寄りかかって
「怪我人をネタにして遊ばないでくださいよ。まだ自由の効かない体なもので、大人しく我慢を重ねてるんですから」
そう言うも、向井課長は悪びれることなく『そっかぁ、あと少しの辛抱ね!』とカラカラ笑う。何の話だと私は額を手で押さえた。
向井課長を見送った後、圭介さんは
「あんな言い方したら後が怖いよ。器具が取れた途端あの人どんだけからかってくるか」
とぼやきつつデスクに向かったが、私は頬の熱さを感じながらも少し首を傾げていた。
恋人となってから2ヶ月以上経つが、翔真さんはキスはしてもそれ以上を求めてはこない。そのキスだって、脚の具合が良くなって逆に、お行儀の良いものになってきたほどだ。
もちろん優しい言葉や軽いスキンシップはたっぷりいただいてるから、愛情を疑うことはないし不安も無いのだけれど。夜はたいてい早く帰してくれるし、とても紳士的。
・・・・・・これも大人になったって事なのかな。体を重ねる事だけが愛情表現じゃないし。
そう思っていたから、向井課長に『我慢を重ねてる』なんて言ったのがちょっと意外だったのだ。
「ああー、速水! 久しぶり」
「わあ、速水さん、大丈夫なんですか?」
次々と出社してくる社員らが笑顔で翔真さんに言葉をかける。彼は2課に来てひと月で事故に遭い入院したというのに、ずっと前から居たかのようだ。
「ご心配とご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「いやいや。でも事故のこと聞いた時は吃驚したよ~」
「もう1つ吃驚したけどねぇ?」
翔真さんの島の人達から私の方めがけて視線が飛んできた。
「2課に入ってひと月で木花さんをさらっていっちゃったからねー」
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