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「なかなか接客上手な店員だったな」 「・・・・・そうですね」 それ何目線なんでしょうかね、と、上機嫌の翔真さんに返す言葉に迷う。パステルピンクの紙袋を下げて、今度は紳士物の肌着売り場へ向かった。先程の店員さんが 『最近は男性下着もお洒落な品が増えましたよね』と、 彼女のご主人が好むブランド名を挙げてくれたものだから、翔真さんも購入しようと思い立ったのだ。 「・・・・・・あの人の旦那のほうが趣味が若いようだな」 しかし聞いてきたブランドはビビッドな色使いの柄が多く、彼は手に取ってはみたものの棚に戻してしまった。 「じゃあ、あっちので良いんじゃないですか?」 実は入院中柚奈さんと交代で翔真さんの着替えと一緒に下着も運んでいたため、彼の好みは分かっている。8年前とさほど変わらずシンプル指向だが、ワンランク大人っぽくなった。 それから近くに紳士服売り場もあったので、下着を買ってくれたお礼に今度は私が翔真さんにシャツをプレゼント。休日に着る用の、カジュアルだが上質なものを選ぶと『良いセンスしてる』と喜んでくれた。 それからカフェで一休みした後も、可愛い雑貨の店やインポートショップなどに立ち寄ってお買い物デートを続けた。うきうきと店を渡り歩いていて、はっと反省する。 「ごめんなさい翔真さん、歩きすぎて疲れましたよね?」 怪我が治ったばかりなのに、いきなり今日はたくさん歩かせてしまった。 「大丈夫、逆に医者に言われて真面目に筋トレしてたし。でもそろそろ腹減ったな」 「あ! もうこんな時間」 楽しい時間は過ぎるのが早く、気づくとレストラン街は長蛇の列という時間。 ゆっくり食べたいという翔真さんの提案で、すぐ近くにあるホテルのレストランに向かった。ここの2階にあるカフェはデザートバイキングが人気で一度華ちゃんと来たことがあるが、レストランは結構お高いイメージ。それでも翔真さんは慣れた風に堂々としている。昔“キング”と呼ばれていた風貌は健在だ。 「翔真さん、此処来たことあります?」 「優樹さんと2,3度」 なるほど、七海専務となら。っていうか、この人も一度は七海の跡取りになりかけた人だ。そう言えばセブン・シーズでの肩書きは何なのだろう、と思って尋ねてみると 「営業の課長補佐。何でも屋だからね。役職がつくと自由に動き回れないからって、中途半端なところにぶら下げといてこき使われてた」 『ペルーに飛ばされてたしね』と笑う。それは立石さんからも聞いていた。『大きな成果を出して帰国したから、もっと出世しても良い筈だったのに』と、翔真さんを慕う彼は不服そうだったが。 「今度の出向は俺の我が儘だったが、責任ある役職だと出られなかったから丁度良かった」 そう優しく言われて頬が熱を持つ。私目当てで出向してきたんだって思い出して照れてしまった。
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