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「欲しくて欲しくて、仕方なかった。大事にしなければと、分かってはいても」
ベッドのシーツをめくった彼に腕を引かれ、導くように横たえられた。
恐怖はない。随分と前だけれど、たっぷりと愛された記憶には幸せしかなかったから。
「壊したくない宝物だが、・・・・壊したい衝動に駆られるんだ」
その言葉に反して、私を上から見下ろす彼の手は、恐る恐るというように私の頬を撫で、肩に触れて止まった。
「・・・・・・・、」
息を吸って何かを言おうとしながらも、再び唇を固く結んで黙る。
今更何を躊躇い、恐れているのだろう。
「翔真さん?」
瞼を半分閉じた彼は私の手を拾い上げ、手のひらに頬を寄せた。それから4本の指をそっと握って額に押し当てる。
「壊れませんし、大事にしてもらってます。・・・・凄く幸せです。
私は・・・・私も、貴方が欲しい」
握られていない方の手で彼の頬を包んだ。その手の指には誓いの指輪が光る。
「鈴香、」
翔真さんは今度こそ、真っ直ぐに私を見つめて私に覆い被さってきて。
「愛してる。・・・・・・愛してる、鈴香」
何度も何度もそう言葉を降らせて、素肌を重ねた。
与える喜び、与えられる悦び。
荒い息づかい、シーツの擦れる音。
濃厚な熱気の中、愛しい名前を呼び合いながら。
貪るように求め、刻み込むように与え、むきだしの命を共有する。
ポトリと私の首筋に落ちた雫は、もしかしたら汗だけじゃなかったかもしれない。
・・・・泣いていたのは、もしかしたら私だけじゃなかったかもしれない。
その晩、私は夢の中でまで彼に愛されて。
漸く、真珠色の静寂に包まれて目覚める、その直前
―――「鈴香の涙が全部、報われる日がくると良いね」
夢うつつに、優しい優しい声を聞いた気がした。
―――「あの時あんなに泣いたのにも意味があったって、思えたら良いね」
・・・・報われたよ、十分。 意味はあったんだね、遠回りだったけど。
離れて歩いた道にも、恵みはあふれていた。
うん、私、幸せだよ
・・・・・・・・ありがとう、良隆くん。
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