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結論から言うと、翔真さんは木花姓にならなかった。 「なんでっすか! 俺の方が、10年近く木花の家に通ってるんっすよ?!」 連休前に職場近くの店でランチを共にした大樹が、翔真さんに楯突いたのだ。 「留香のお母さんから息子扱いされるの、俺だけの特権だって思ってたのにぃ。俺の長年の野望が・・・・」 「え・・・?」 私は聞いていなかったが、年の離れたお兄さんの居る大樹は木花の両親に懐くあまり、婿に入る気満々だったそうだ。それは彼にとってあまりに自然な事で、わざわざ私にはことわっていなかったと主張する。 「早い者勝ちか? それに婿養子が1人に限られるって訳でもないだろう」 「ありがたみが減るじゃないっすか」 「あら? 大樹くん、ありがたられたいの?」 呆れてそう言うと、大樹は口を尖らせて 『つか、可愛がられたいんっすよ』とふざけたことを言う。 子供か。 「森井のご両親は?」 「兄貴んとこにもう内孫が3人居るっすから、俺が出ても平気だって言ってますもん」 「“もん”って言わないの、25の男が」 「ええー、鈴香さん、お義母さんより古くさい」 「はい?」 お母さん、大樹くんには甘いからなぁ。私の後輩かつ留香の先輩として家に遊びに来た時から、ワンコ王子の大樹はお母さんのお気に入りだった。 「・・・・ほんと仲良いな」 私は大樹を睨んだのに、なぜだか翔真さんが不機嫌だ。大樹はニッと笑ってお茶を啜り 「“弟”歴、長いっすからね」 と得意気に胸を張った。 確かに、同じ高校に通っていた大機の家は私達の実家に近い。 仕事の都合で当分は大樹と留香も此方の街で暮らすのだけれど、将来誰かが木花の両親の面倒を見るとすれば、いずれ地元に帰る可能性が高い大樹達の方かもしれない。 そうして連休に挨拶に行った我が家では 「あらぁ、イケメンが2人も息子だなんて贅沢だわねぇ。でも大樹だけで良いわよ」 お母さんが上機嫌で言い切った。その軽口はお父さんに『言い方に気をつけろ』と咎められたけれど、お母さんなりに気を遣っていたのだと思う。 お父さんも『娘2人とも嫁に出す覚悟でいたから』と言って、話し合いのすえ私が速水姓を名乗ることになった。 「鈴香さんのことは全力で守りますので、俺のことも息子として末永く宜しくお願いします」 両親の前で、翔真さんは礼儀正しく頭を下げてくれたのだけれど。 「よろしく、お義兄さん」 店舗勤めの留香は帰省出来なかったのに、ちゃっかり大樹はうちにご飯を食べに来ていて、ビール瓶片手に翔真さんに絡む。 最初のうちは微妙に嬉しくなさそうだった翔真さんも、結局大樹の人懐っこさに懐柔されて笑顔が増えた。  
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