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連休が明けてしばらくすると、翔真さん達の部内異動があった。翔真さんは1課に移り立石さんが2課にやってきた。 「1課って、うちのエリート集団なんですってね」 「必要な専門知識が多いとは言われたが。営業の腕って意味のエリート感はないな」 セブン・シーズみたいな卸売業出身の翔真さんはあまり魅力を感じてなそうだったが、短期間の研修だけでMRの認定資格も得ていた彼はそつない営業で1課でも重宝がられていた。 2課では立石さんが持ち前の謙虚さと愛想の良さで先輩達からも営業先からも可愛がられた。 「鈴香さん、落としたよ」 婚約発表以来私を下の名前で呼ぶ許可を得た立石さんが、社食で並んでいた私の落とし物を拾ってくれた。 「ありがとうございます。外れちゃったんだ」 「紐が切れたのかぁ、半年前のだもんね。」 去年翔真さんが販促課に居た頃考案したという、化粧品ボトルにつけるチャーム。2色のアクリルビーズの輪っかに銀色の紐が綺麗だったから、私は社内で私物を持ち歩くミニトートの持ち手につけていた。 「もう要らないよね、本物があるから」 「え?」 「これ、僕の指には・・・・入らないよねやっぱり」 私の手のひらからビーズの輪っかを摘み上げた立石さんが、自分の薬指にソレを嵌めようとする。 「指輪じゃないですよ、ソレ。2連だし」 「まあね。でも指輪のイメージだったんだよ。・・・あ、大きい方なら入る」 「恭人!」 離れた所から翔真さんに呼ばれて、『じゃあ、はい』と立石さんはチャームを返すと、跳ねるように男性陣が座るテーブルへ向かった。2課の男性社員と数名でテーブルを囲んでいる翔真さんが、軽く手を上げて私に笑いかけてくれたから、小さく手を振って応える。 「ラブラブですねぇ~」 「手振っただけなのに?」 「周り見てくださいよぉ、若い社員の羨望の眼差し」 文恵ちゃんに言われて見回すと、パッとお皿に視線を戻す女子社員たちが多い気がした。翔真さんを見つめたままの男女も居る。 「・・・・でも社内カップルって、そんなに珍しくないよね?」 「速水さん注目の的でしたし。それにおふたりの事をドラマチックに吹聴してる人がいるんですって。8年ぶりの再会愛だとか、身を挺して彼女を守ったとか」 「ちょ、文恵ちゃん声が大きい。・・・なんで? 誰がそんなこと」 空いたテーブルを見つけて横並びにトレーを置き、椅子を引きながら尋ねたら 「企画開発の、田所さんとかいう」 「たっ、・・・はぃいい?」 つい妙な声が出た。思いがけない・・・・というか、久々に聞く名前。 「はーい、田所でーす」 「わっ、」 そこへ凄いタイミングでご本人が登場。私達の向かいの席に、ラーメンの乗ったトレーを置いた。  
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