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結局志保は『アイツの体温が残ってた椅子は嫌だ』と言って、田所さんの座っていた席の隣に腰掛けた。すると文恵ちゃんが前屈みになって内緒話をするように口に手を当てて言う。 「何なんですかねぇ。あの人、さっきの噂流すついでに『俺が2人の元サヤに一肌脱いだんだ』なんて言ってるそうなんですよぉ?」 「「はぁ?」」 志保と私の声がきれいにハモった。 「煮え切らない速水さんを叱咤激励して、鈴香先輩に告白させたとかなんとか」 「いや・・・・そんな事実は無いと思うわ」 「明らかな嘘ね。頭おかしいんじゃないの?」 「まぁ信じる人はあんまり居ないって話でしたけど。なるほど、普段の言動がモノを言うんですねぇ」 そう言って前屈みのまま、首を傾ける文恵ちゃんは 「彼女に愛想尽かされなきゃ良いんですけどねぇ」 と、窓際の席に座る2人を見遣った。 “彼女”のワードが引っかかって見ると、“構ってビーム”をビシビシ飛ばしながら喋っている田所さんの向かいで、黙々と箸を進めるみな美さん。それでも穏やかに微笑んでいるようにも見えて、 「・・・・割れ鍋に綴じ蓋?」 「えええ~?」 志保の言葉に、私は瞬きを繰り返した。 「ああ、沙綾から聞いた」 翔真さんは、みな美さんが田所さんから告白され返事を保留にしている状態だと知っていた。さほど関心は無さそうだが。 「一緒に居て楽とかなんとか、言ってたらしい」 「良かったじゃないですか。ソレが一番ですよね」 「ちやほやされるのが好きな性質[タチ]だからな」 「言葉を選びましょうよ。大切にされて嬉しいのは皆同じでしょ?」 ふうふうとグラタンを冷ましながらそう言うと、翔真さんはフォークを咥えたまま上目遣いで私を見る。家で見る彼はどうも子供っぽい気がする。 「鈴香・・・・、じゃあ他の男から大切にされても嬉しい?」 「そりゃあ嬉しいでしょうね。 勿論、好きな人から大切にされるのとは嬉しさの質が違いますけど」 そう正直に言うと、満足な答えだったのかニッと笑って、もう一口グラタンを口いっぱい頬張った。 ・・・・熱くないのだろうか。 グラタンだけでは足りないだろうと思って用意していたソーセージと温野菜のサラダも完食し、『ご馳走様』と手を合わせて『今日も美味しかった』の一言も忘れない彼の笑顔が、やっぱり好きだなと思う。 「皿洗うよ」 「え、私しますよ」 「作ってもらってるし。柚奈から『甘えるな』って言われてるし」
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