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自分の結婚式が近いので翔真さんの世話に来なくなった柚奈さんは、
『お兄ちゃん? 女性に家事を押しつけるような昭和な男は奥さんに嫌われるからね』
と念押しを忘れなかった。
けれど思い出せば、翔真さんは学生時代から掃除洗濯はきちんとしていた気がする。お料理は・・・・1人分作るのが面倒なのは理解できるし。
私だって留香の分を作ったり華ちゃんと一緒に作る時の方がちゃんと料理するものだ。
「さて、湯、沸かすか」
夕食の片付けが一段落すると珈琲を淹れる。マシンを買ってもいいのだが、『誰かが結婚祝いにくれるかも』と言って現在はドリッパーを使っている。
“我楽”でバイトしていた頃、珈琲を淹れるマスターのプロらしい仕草が好きだったが、わざわざケトルで沸かしたお湯を高い位置から注ぐ翔真さんの、真剣な顔もけっこう素敵だ。
「んー、美味しい。この豆も結構好みです。翔真さんの淹れ方が良いのかな」
「愛情だろ」
ソファで2人並んで珈琲を啜る。お喋りをすることもあれば、ただ静かに琥珀色の香りを楽しむこともあって、
いずれにしても癒やしのひとときだ。
ただひとつ、ちょっとだけ寂しいのが
「貰い物のクッキーがあるんだが」
「――、・・・・1人で食べてください」
この時間、お菓子を我慢しているということ。
「ダイエットの必要はないだろう? 着物なんだから」
「男性は恰幅の良い方が似合うかも知れませんが、私は太るとすぐ顔に出るので」
結婚式は神前式に決めた。
私は神道にもキリスト教にも入っていないので、決めた理由は(罰当たりな気もするが)単に、婚礼衣装を和装にしたからだ。柚奈さんに倣ったと言う訳ではなくて
「翔真さんは肩幅があるから着物も似合うんですかね」
衣装選びで試着した翔真さんの羽織袴姿に、口が開きっぱなしになるほど見惚れてしまった。
スーツ姿は見慣れているしモーニングもタキシードも似合っていたたけれど、和装姿の男前だったこと!!
「男はどうでも良いもんだろう? 結婚式の主役は花嫁だ。・・・・・・ま、綺麗に着飾った鈴香を、他の男に見せたい訳じゃないが」
「またまた・・・・」
披露宴のお色直しでは洋装も選ばせてもらったから、ドレスも着る予定。
柚奈さんや留香が可愛いらしさを前面に出したデザインなのに対して、私は少しだけ・・・・華ちゃんと比べられたら困るけど、それなりに大人びた形と色にした。
それがパッツンパッツンになっては悲しいから、式までは間食を控えているというわけなのだ。
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