まおうのたね

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「よもやここまで来るとは、」  王子の目の前に杖を突いて立つ老人は咳き込みながら言いました。これが魔王かと王子は思いました。魔王の腕は細く、力が無いのか小刻みに震えています。そして彼の後ろ玉座もまた、質素極まりない物でした。 「そなたらがこの地で生きていくには辛かろうに、如何にしてここまで来た」 「食べる物は奪ってきた」 「は」王子の言葉に魔王は笑いました。 「我が民から食料を奪ってか、笑わせる。我が国にそこまでの食い物があるとでもいうのか。貴様が踏み荒らした土地を見ろ。農地にするなど100の年月をかけても不可能であろう。この地に生きる生き物はどうだ、あまねく獣の肉には毒があるのだぞ。そのような地に暮らす我らから、何を奪おうというのか」 「……お陰で兵たちの半分が死んだ。あらゆるものを奪ってもだ」 「そうか、そうか、貴様らも我らと同じか」  魔王は声を上げて笑い、しばらくして咳き込みました。血の飛沫が床に飛んだのを、王子は見逃しませんでした。 「……そしてそのような愚劣な兵を前に我が軍は滅んだか」 「そうだ。外の戦いももう終わるだろう」  魔王の城の外では兵団と、魔王軍との最後の戦いが行われていました。王子はその混乱に乗じて一人、城に乗り込んだのでした。 「お前の負けだ魔王。我が国民の仇はここで討たせてもらう」  魔王に近付き、王子は剣を振り上げました。魔王は溜め息を吐き、王子を睨みました。 「……だが王子よ。忘れるなよ。例え我をここで殺しても、我の意思を継ぐものは必ず現れる。種子は蒔かれたのだ、貴様らの国を、我らに苦難を押し付けた、貴様らの国を滅ぼす魔王の種子が」  王子は炎の剣を振り下ろしました。魔王の頭は半分に割れ、焦げた匂いを放ち、それからゆっくりと倒れました。  城の外の戦いも決着がついたようでした。将軍と、生き残った兵たちが歓声に包まれていました。  王子は小さく何かを呟き、玉座を後にしました。剣を握るその手は、柄の壊れる音が聞こえてきそうなほどに、力が込められていました。
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