まおうのたね

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 魔の大陸から生きて帰ったのは王子だけでした。魔導士も、将軍も、逃げ足の速いと貶されていた若い兵卒でさえ生きては帰れなかったのかと王国の人々はどよめきました。 「息子よ、して魔王は」  玉座の前に跪き、王子は事の全てを話しました。 「魔王は死にました。魔の大陸の知恵のある魔物もまた、全て滅びました」 「さぞ醜悪な者達であったろう。お前には苦労を掛けた。さあもうひと仕事があるぞ。我が国を救った英雄を、全ての国民が見たがっているでな」  王が笑い、女王が微笑み、臣下たちも安堵の表情を浮かべていました。  それから王子は王宮のバルコニーから国民に姿を見せ、手を振りました。国民は喜び、彼に手を振り返しました。空には花火が上がり、屋根という屋根に王家の旗が建てられ、すべての道には民の笑顔で溢れていました。そんな彼等の振る腕を見た王子の心の中に一輪の花が咲きました。赤く揺らめく、美しい花です。  こうして魔王は討たれ、せかいには平和が訪れたのでした。
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