まおうのたね

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「おい、シェルドン。生きてるか」  とある村の牢屋で両手を鎖に繋がれた男が、弱々しい声で言いました。 「……ああ、グリーデ」  しばらく間を空けて、まるで羽虫の飛ぶ音のような声が答えました。いつ死んでもおかしくないその2人は、もとはただの村人でした。  魔王の軍勢がその村に攻め込んできた時、村人たちは3つに分かれました。  1つは村を捨てて逃げ出す者。彼等は片手に収まるほどのお金を持って、ねずみのように鮮やかに村を出ました。けれど彼らの多くは盗賊に捕まり、人買いに売られていきました。  もう1つは降伏し村を魔王の軍勢に売ろうとした者達。彼らは降伏の旗を挙げて軍勢の宿営地に行きました。けれど彼らは残らず焼かれて、それから食べられました。  最後の1つは村に残って戦った者。彼等は殆どが殺され、生き残った者は捕まり拷問に掛けられました。グリーデとシェルドンもそうでした。 「今日で、何日目だ」とグリーデは訊きました。 「さあな、……昼か夜かも、分からん」とシェルドンはか細い声で答えました。  ふたりは、小さなころから仲が悪いことで有名でした。顔を合わせるたびに喧嘩をし、血を流すまで殴り合う事もありました。 「……王子が、例の剣を、抜いたって、聞いたか」グリーデは言いました。 「……随分前にな。……命を吸って燃える、炎の剣か、心強いじゃ、ないか……」シェルドンは答えました。  2人の意見が初めて合ったのが、魔王の軍と戦うと決めた事でした。2人は勇敢に戦いました。けれど、ただの村人が魔物の軍勢に敵うはずはないのです。最後まで戦った2人は、村の仲間が殺されたり、裏切ったり、逃げ出していくのを何度も見ました。それでも2人は手を取り、最後まで戦ったのです。 「そうとも、もうすぐ王子が来る。……剣を抜いた、たくましい男がな。……魔王なんざ、一捻りさ」グリーデは言いました。  シェルドンは答えませんでした。答えは帰ってきませんでしたが、グリーデは声を絞り出しました。 「なあ、シェルドン。もうちょっとだ。もうちょっとで、俺達の村を取り戻せるんだ。もう少し、もう少しで――」
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