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「王子さま」
船に揺られながら女の魔導士が王子に声を掛けました。その魔導士は国一番の魔法の使い手でした。魔物が大陸に攻め入ってきた時に、魔王を討ちに行く為の兵団に最も早く決まったのは彼女でした。
「この船旅が終われば、いよいよ魔物の大陸です。……顔色がよろしくありませんが、船酔いですか?」
対する王子は、かつての預言の通り、伝説の炎の剣を持つことが出来る唯一の人でした。彼らが10隻もの船で魔物の大陸へ攻め入ることが出来るようになったのも、王子と炎の剣なしには不可能なことでした。
「いや」
しかし王子の表情は冴えません。元より寡黙な男だと魔導士は知っていましたが、それでも彼の声には悲しみが見えました。
「気になることでも?」
「遅いんだ」王子はしばらく黙って、言葉を探しました。
「俺は魔物を倒せる。でも、そいつに殺された人は救えない。……いつも俺は、遅い」
「王子さま」と魔道士は答えました。「たしかに私達は、いつも後手です。ですが、倒した魔物はそれ以降、誰も殺めることはできません。そうやって、私達は人々を救っているのですよ」
「……ありがとう」
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