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僕は視線恐怖症だ。
となればまぁそれが対人恐怖症や人間嫌いと地続きになってしまうことは皆ご存じの通りで。
友達なんて、たったの一人もいやしない。
高校三年生の冬の夜は魔女の血液のように冷たかった。肩を竦め、モッズコートを頼りにして夜の街を歩く。傍らには誰もいない。寒さを紛らわせる談笑を交わす相手もいなく、かじかみきって本当に体の一部なのかと疑ってしまうくらいの指先を温めてくれる人肌も存在しない。
そんなことには慣れている。
小学三年生の頃に僕は視線恐怖症になって、色々な意味で友達を失った。その日から僕は一人だ。
油色と錆鼠の落ち着いた二色に塗り分けられたタイルは僕の足跡を残すことなく、ただ橙の街灯の明かりを表面に残していた。
すると車のランプが僕に近づいて視界を真っ白にした。視線は機械的にそれに向かって泳いでは、対向車線の赤いテールランプに注がれる。
ここは橋の上だ。
せせこましい往来は車だけで、人は僕以外にいなかった。
車はゆっくりとした速度で走る。お散歩のような調子で。
懐かしいメロディが耳朶に触れた。
そうか、今日はクリスマス。
僕がもう気にすることはなくなった友人がいないことや、人肌の恋しさを今になって気にした理由はそれか。
どうりで車も楽しむようにゆったりと、時に窓から曲を流して進んでいるわけだ。
僕は右側に広がる高架下の川に視線を投げた。黒々としていて、光は届いていないように思える。
僕は視線を前方に戻して、歩いた。
今日は、クリスマスに関わらず、待ち合わせの日だから。
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